山の番人

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「取り敢えず、山小屋に戻ろう」 「あぁ。ちなみにこっからどのくらいだ?」 「一時間くらいかな」 「笑顔で簡単に言うな・・・あと、一時間も掛かるのか」 鏡が肩をがっくりと落とし、大きなため息をついた。 「じゃあ、素直に帰れ」 「それは、もっといやだ」 そんな俺たちの会話を絢也は、不機嫌そうに眺めていた。 「翔さん、山小屋に戻らないんですか?これから天気が崩れるみたいですよ」 「あぁ、分かった」 山の天気は変わりやすい。 無線で、人数を報告し、山小屋に戻る事を告げ、移動を開始した。 「一樹、離婚したみたいだ。何か、聞いているか?」 「いや、なにも」 兄とはまめに連絡は取り合っている。 ついこの前、結婚したと報告を受けたばかりなのに。 「やっぱり愛想をつかれたか」 「そんなもんじゃないよ」 鏡との話しに夢中になりすぎて、絢也に何度も注意された。 雲ひとつない快晴だったのに、山小屋に近付くにつれ、雲が急速に集まり始めた。 「みなさん、急いでください‼」 絢也の張りのある高い声が飛ぶ。 みな、急いで山小屋に駆け込んだ。 ほどなくして、屋根に打ち付けるような激しい雨が降りだした。 スタッフと手分けしてタオルと、温かい飲み物を配って歩いた。 「翔、ちょといいか」 鏡に手首を捕まれ、奥の食堂に連れていかれた。 「なるべく人がいない方がいいから」 そう言って、鏡は、兄の妻について色々と教えてくれた。 身分を偽り、兄の優しさにつけこんで近付いたこと。選挙資金を持ち逃げしたことなどを話してくれた。 「マスコミに漏れたら、かなりの痛手になるのは間違いない」 「それは分かるが、俺には関係ない」 「翔・・・」 「山籠りの熊に公設秘書なんて絶対無理だよ。それに、山を下りるわけにはいかない」
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