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出会いはひまわり畑から
サワサワと夜風に揺れるひまわり畑で初めて貴方に出会った。
「鏡礼だ。君熊みたいだね……その……笑ってごめん……」
「どうせ山籠もりの熊ですから」
「そうやっかむな」
山小屋の管理人をしていた俺。
盆休み明け、東京の父の選挙事務所に帰る前にふと立ち寄ったひまわり畑で彼に出会った。
まぁ、熊と言われても仕方がない。髪はぼさぼざ髭も伸び放題。陽に焼けて肌も真っ黒だったから。
熊みたいな容姿の俺とは雲泥の差の彼。
由緒ある良家に生まれ育ち、20歳過ぎまで海外で暮らしをしていた彼は、洗練された大人の雰囲気を纏っていた。長身痩躯で、目鼻立ちが整った顔形は、否応もなく、女性たちの目を引きつけていた。
でも、鏡は女性には一切興味を示さなかった。見ようともしなかった。
その理由を自分から話してくれた。
「オレ、女性に興味がないんだ。父親が無類の女好きで――本家には口やかましく干渉するくせに、自分の事になるとルーズで……女性を見るだけで吐き気がするんだ」
「あの真一郎さんが?」
信じられなかった。昔気質の真面目な人。そのイメージしかなかったから。
「みんな見た目で騙されているんだ。社長令嬢のオレの母親は、ただの飾りだ。父は、若い秘書に目下ご執心だ。自分の年を考えろっていうんだ……あぁ、バカバカしい」
吐き捨てるように鏡は言うと、ヒマワリの花に目を落とした。
強張っていた彼の表情が少しだけ緩んだ様に見えた。
なんだろう、この感じ……
胸がドキドキする。
鼓動が一気に速くなり、息が苦しい。
その時だったーー
「礼!礼!」
兄の声が聞こえてきたのは。
一瞬で、鏡の顔がぱぁ~と明るくなったのが分かった。
でも、すぐに表情が厳しくなった。
甘え上手な兄。大概の女性たちは、母性本能を擽られるらしく、兄はモテモテで、常に女性達を侍らせていた。
鏡はその女性たちを睨み付けていた。
その時彼が兄を好きだという事に気が付いた。
同時に俺の苦しい片恋が始ったのだ。
あれから8年。
いまだ、苦しい恋は現在進行形で続いている。
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