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第2話 錆びれた剣士
儀式の日はすぐにやってきた。
トリス村にある祭壇に村の人達が集まっていた。
これだけの人が一カ所に集まるのはいつ以来だろうな。
「それでは、このトリス村に儀式を行えること……これは神に誓って」
「ちぃ! 話がなげぇな!」
「ちょっと……ニーナ聞こえるよ」
「ふふ、神聖な儀式だし仕方がないわよ」
王国から来たという【シスター】と呼ばれる人物。
女の人かと思ったら今回は髭の生えたおじさん。
その、おじさんの話が長く痺れを切らしたのか。ニーナが文句をぶつぶつと言っていた。
儀式は子供しか受けられなくて、成人した大人はもう権利がない。
だから、資格のある各村の子供たちを集めているらしい。
そして、やっと話が終わると老人シスターである【ナイル】は俺達にある石を渡してくる。
「トリス村の祭壇に一人ずつ登り、その【マナ石】を握り締めるのじゃ……自身に中にある力が反応し、どういうスキルなのかを教えてくれる」
納得しながら、俺達の儀式はいよいよ開始される。
順番はどうするかと聞かれたが、代表して俺が一番最初に受ける事にした。
祭壇に登っていく途中に村の人達から歓声が上がる。
改めて緊張する。だが、ニーナ達が手を上げながら頑張れと声援を送ってくれる。
少し気が楽になった。祭壇の頂上まで辿り着くと。俺は言われた通りにマナ石を胸の辺りで握り締める。
「……神様、お願いします」
神様に祈りながら、しばらく握り締めているとマナ石が神々しく光りだす。
あまりの強烈な強さに俺は視界を奪われる。
そして、光が放ち終わった時。祭壇から声が聞こえてきた。これは、女の人の声?
『聞こえますか?』
「え……? あ、はい!」
『申し遅れました、女神の『パティ』です! 以後お見知りおきを』
美しい女の人の声が聞こえて、思わず返事をしてしまう。
女神様が直接マナ石に反応して、儀式を受けた者にスキルを知らせてくれる。
緊張の瞬間。これで、この先の運命が決まる。
約束した通り、三人と一緒に……。
『さて、ローク様のスキルですが……選定の結果【錆びれた剣士】という結果になりました』
「錆びれた剣士?」
『はい、正直に申し上げますとスキルの中では弱い……いや、最弱の部類ですね』
「最弱……なんですか」
最弱と聞いて一気にテンションが下がってしまう俺。
落胆の溜息をついてしまう。しかし、慰める様に女神様は捕捉をしてくる。
『ですけどどんなスキルも磨けば強くなりますよ! 時間はかかるとは思いますが、後は本人の意識次第です』
「そうなんですか」
『安心して下さい! 貴方を慕ってくれている方達が助けてくれるはずです! ですから、気落ちしないで下さい』
祭壇を下りながら、俺は女神さまの言葉を信じる。
そうだよね。俺にはニーナもシャノンもフローレン姉さんも付いている。
優しい両親や村の人達もいる。
「ど、どうだった? ローク!」
「ロークの事だから強いスキルを手に入れたはずよ」
「ふふ、一段と表情が凛々しくなったわね」
これだけ期待されてとても言いにくい。
しかし、三人に嘘はつく事は出来ない。
正直に打ち明ける。すると、三人は俺に優しい言葉をかけてくれる。
「なんだよ、そんな事かよ、気にするな! 私だってロークと同じだって」
「へぇ……まぁ、大丈夫じゃない? いつだって、私達は一緒だよ」
「うんうん! それに鍛えれば強くなるって事を考えたら運がよかったんじゃないかな? 簡単に強くなったら人間性が歪むかもしれないしね」
暖かくて泣いてしまいそうだ。
俺は、涙を堪えて絶対に誓う。必ず強くなると。
これが終わりじゃない。始まりなんだと自分に言い聞かせる。
だが、ここからが地獄の始まりだった。
「凄いな! まさか……こんな事が」
シスターのナイルは驚きを隠せなかった。
あっという間に儀式は終了した。
しかし、儀式の内容は物凄く濃いものだった。
「トリス村の皆様……重大な報告があります! この瞬間、この世界の歴史が変わりました」
「ど、どうしたんだ?」
「勇者に匹敵する強力なスキルを持つ者……それが一気に三人も判明する事になりました」
「さ、三人!? それって、まさか……」
ニーナ、シャノン、フローレン姉さん。三人共、浮かない表情だった。
俺に何も答えず、ただ愛想笑いをするだけ。申し訳無さそうにしていた。
なるほど、そういうことだったのか。
ナイルがこの村に報告した内容。それは、俺が想定した中で最悪の事態。
「そう、ニーナ、シャノン、フローレン……この三人は神に祝福され、選ばれた者! 是非、我が王国である【アレースレン】に招聘したい!」
高らかに宣言してナイルは両手を天に掲げる。
両親、村の人達は凄く盛り上がっている。
この何もない村から三人の変革者が誕生した。
勇者に匹敵する力。それは、この世界にとって大きな味方となるだろう。
三人は揉みくちゃになりながら、祝福を受けている。
だけど、その輪の中に俺の存在はなかった。
しばらくして、儀式は終わった。
三人が村の人達に祝福を受ける中で、一人で俺は祭壇の前に立っていた。
終わったんだな。あれだけ騒いでいた声が消えて、とても静かだった。
錆びれた剣士、何度聞いても駄目なスキルだ。
それに比べてあの三人は……。
「ローク」
すると、哀愁を感じる声が聞こえてくる。
後ろを振り向くとそこには、ニーナ、シャノン、フローレン姉さんの三人が立っていた。
今日の結果で、俺と三人の立場は大きく変化した。
距離感というのをどうしても感じてしまう。
「みんな……ごめん」
まずは謝る。不甲斐ない結果に終わった。
一緒になると言ったのに、自分から決めた事なのに。
だが、頭を下げる俺にまずはニーナがいつも通りの乱暴な口調で。
「は? 何だよそれ! 言っただろ? 気にするなって! 何が強力なスキルだよ、勇者に匹敵する力だよ! 関係ねえって」
「で、でも」
「でもじゃねえよ! 細かい事は気にするなよ、私達がお前が強くなるまで支えてやるよ」
ニーナは怒りながらも心に染みる発言してくれる。
そして、続くようにシャノンも。
「確かに少しは立場は変わるけど、私達の関係は変わらないわよ」
「はは、そうだよね」
「……少しは自信を持ちなさいよ、大丈夫!足並みを揃えればいいだけの話よ」
照れくさそうにシャノンは腕組みをしながら激励をしてくれる。
ありがとう、本当に。
最後に、フローレン姉さんも。
「安心しなさい、ロークは私達にとって大切な存在だから」
「本当に、ごめん」
「ふふ、謝らなくてもいいのよ! さてと、また気を取り直していきましょ! ずっと、私達は一緒なのに変わりはないんだから」
うう、本当に泣きそうなぐらい優しい。
それぞれ三人は悲しんでいる俺に言葉をかけてくれた。
でも、まだ泣けない。絶対に三人と同じレベルまで追い付いてやる。
それを心に誓って、俺は再びマナ石を握り締めた。
しかし、ここからもう幸せの日々は終わっていた。
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