第1話 田舎の夏はガキが憎い

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 夏を憎んでやまない僕だが、それでも都内にいた頃は冷房の効いた部屋に引きこもり、あるいは、昔なじみの友人と遊びに出たりして過ごす夏休みというものを人並みに謳歌していた。おそらくは今年の夏も似たような日々を過ごすのだろうと、ほんの数か月前まではそう思っていたのだ。  左手に見える海岸では押し寄せる白波が一定のリズムで防波堤に吸い込まれている。先ほどまで列をなして等速で進んでいた波は、反射して、あるいは分散していき、その姿はもうない。  父の仕事の都合により、我が家は今年の春にこの島に移住してきた。  それはつまり僕の今までの日常が死んだということを意味していた。しかもさながら波が消えていくように、一瞬で。即死だった。  せめて終わりをもっと早く知っていたなら、何かが変わっていたかもしれない。「終活」とは言わないのかもしれないが、日常の終焉を迎えるにあたり準備できたこともあるだろう。……引っ越し一週間前まで転勤のこと黙ってたの、まだ許してねぇからな、親父。
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