ケース3️⃣ 前世報恩

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「あ、いや別に・・。何もないですけど。」 それを聞いて鬼切店長は、ニヤリとして言う。 「そうか。じゃあ、決まりだな。ちょっとドライブでも行こう。」 貴志が答える間もなく、既に車は走り出していた。 交差点、横断歩道、コンビニ・・・・走る車内からは、貴志がいつも下校時に見慣れている町並みが見える。 しかし、そんな景色は一切、貴志の目には映らず、チラチラと車内を見回すのに精一杯だった。 「・・・この車、何ていう車ですか?」 あんまり車に詳しくない貴志が、聞いてみる。 鬼切店長が、優しい眼差しを向けて答えた。 「コレか。BMWだ。知ってるか?」 「は、はい。聞いた事あります。確か、高級外車ですよね?」 「まあな。それなりに、良い車だ。」 そう答える鬼切店長のダンディな雰囲気は、この車がよく似合う。今日だって、この車と比較しても見劣りしない様相を呈していた。黒いベロア生地のジャケットをさりげなく羽織り、長い足に合ったスリムな黒いパンツ、そして左手には、ブランド名こそ判別出来ないが高級そうな腕時計を付けている。 貴志は常日頃から、鬼切店長に対して思っていた。この人は完璧すぎて、何か不満や悩みなどあるのだろうか、と。 「それより、どうだ? 調子は? 何か変わりはないか?」 「あ、まあ。特に。」 「そうか。それなら良かった。今日、仕事の諸用で出掛けていたんだが。終わったから、たまには車で迎えに行ってみようかと思ってな。」 鬼切店長は、また優しく言ってくれた。 「そんな・・。迎えに来てもらって、すいません。」 「気にするな。用事が済んだついでだ。」 車は、赤信号で停まった。交差点を行き交う車。夕方近くになると、徐々に車が増えてくる。 ほんの僅かな時間、車内は沈黙で満たされたが、貴志はすぐにどうしても話さなければならないと思った。 「・・・あ、あの、鬼切店長。」 「ん? 何だ?」 前を向いていた鬼切店長が、チラリと貴志の方を向く。 「いや、・・あの、すいません。実は、この前、母に昔の話を聞いてしまって・・・。」 貴志は意を決して、話を切り出した。 「ん? ああ。昔って、・・あの頃の話か。」 鬼切店長は一瞬、疑問を抱いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔で返答する。 貴志は自分自身が、悪い事でもしたかのような気持ちになり、鬼切店長の顔を見れなかった。
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