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そうして、植松が叶恵に尋ねてみる。
「あの、『座右の銘』を何かもってますか?」
「ざゆうのめい?」
叶恵の頭に、疑問符が浮かんだ。すぐに修治が植松に忠告する。
「ほらほら、また難しい質問したら、頭が混乱してしまうだろ。」
そんな修治をよそ目に、叶恵がビシッと片手を前に出して言いきった。
「待って! ざゆうのめい、でしょ⁈ ちょっと待ってよ〜。え〜と、聞いた事あるんだよねぇ。」
修治がビールを口に運びながら、嘲笑う。
眉間に皺を寄せて考え込んでいた叶恵が、ハッと思い出したように顔を上げた。
「あ、分かった! ほら、『犬も歩けば、棒に当たる』とか、そういう言葉でしょ?」
修治が久しぶりに、大爆笑で声を上げる。
すぐに植松は、笑顔で叶恵に言った。
「座右の銘、それで間違いではないですよ。」
「ほら〜! ね、それぐらい私にも分かるでしょう。」
叶恵が自信満々に、胸を張って訴える。
「間違いとかじゃなくて、それかよ、って感じだよ。」
修治が鼻で笑いながら、叶恵に告げた。
「何よ〜。意外にも、私が知っていたから悔しいんでしょ。」
叶恵は、反発的な目で言い返す。そして、更に調子にのって付け加えた。
「まだ、他にも知ってるわよ〜。」
植松は、黙ったまま聞いている。修治は、ビールをまた飲みながら言った。
「何だよ。言ってみろよ。」
そう言われて、叶恵は天井を見上げ、必死に思い出すようにして答える。
「ええ〜と・・。う〜ん・・。・・・あ、分かった! 桃栗三年、柿八年!」
「ぶはぁっ・・・。ゲホッ、ゲホッ。」
修治は、ついにビールを吹き出した。
叶恵は、どうだ、といわんばかりの表情をしている。
植松は、微笑みながら見守っていたが、やがて、ゆっくりと叶恵に伝えた。
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