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叶恵が感心した様子で、植松に言った。
「そうなのね! あ、じゃあ植松くんの座右の銘は何なの?」
質問された植松は、考える仕草をしながら答える。
「僕の座右の銘は、いくつかあるんですが。その中でも、大事にしている言葉があります。野口 英世さん、って知っていますか?」
叶恵は逆に質問が返ってきて、戸惑いをみせた。
「え⁈ ・・えっと、野口、・・さん、でしょ⁈」
修治が鼻を拭きながら、クスリと笑う。
「はい。野口 英世さんです。」
植松がもう一度、言ってくれた。叶恵は額に手を当て、考え込んでいたが、自信なさそうに上目遣いで答える。
「野口・・、野口・・。歌手・・・の人、じゃないよねぇ?」
「歌手じゃないですよ。」
植松が即答で言った。修治はその間にも、自分のコップにビールを注ぐ。
なかなか思い出せない叶恵に、植松がヒントを出した。
「いつも、よく見ている人です。」
「いつも? え? だって偉い人なんでしょ⁈ 私そんな、偉い人を見る事なんてないし。もしかして、イケメン?」
叶恵が、ますます困惑してきた様子をみて、植松が穏やかに言う。
「えっと今、千円札あります?」
野口という人物の顔を必死に思い出そうとしていた叶恵は、急に紙幣の話題に変わったので一瞬、面食らっていた。
「え? あ、千円? あるけど。まあ急に一万円札って言われたら、持ち合わせがない場合があるけどね。」
そう言いながら、居間の隅に置いていた鞄から、色褪せた水色の財布を取り出す。小さな鈴の付いたファスナーを開けて、要望通り千円札を一枚出してみせた。
「コレ、よね。」
「その千円札、よく見てください。」
植松は、すぐにそう伝える。
「見てください、って、千円札なんて、ほぼ毎日見てるから・・・。」
言われたままに叶恵は、疑心暗鬼で持っている千円札を見回した。そして、
「・・あっ、」
と何かに気が付いて、声をあげる。
その見ている視線の先には、持っている千円札があり、そこに一人の男性の人物像が載せられていて、『野口英世』と書かれていた。
「・・野口・・英世。」
千円札の人物像を見ながら、叶恵の唇がパクパク動く。
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