ケース3️⃣ 前世報恩

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「千円札の人⁈」 叶恵は、植松の方へ目を向け、問いかけるように聞いた。 植松の横では、修治がニヤニヤしている。 植松は、その掛けている太い黒縁メガネの奥から、凛とした眼差しを叶恵に向けて言った。 「千円札に載ってる人ですね。野口英世。黄熱病や梅毒の研究で知られる細菌学者です。ノーベル生理学・医学賞の候補にもなった人です。」 「へえ〜。これが、野口英世。」 そう聞いた叶恵は、持っていた千円札を高く天井に掲げて見直している。 植松は、ズレかけた黒縁メガネを手でかけ直して話した。 「この野口 英世も、色々な座右の銘を残しているんですが。そのうち、僕が特に座右の銘にしている言葉があります。それは、『過去を変えることはできないし、変えようとも思わない。なぜなら、人生で変えることができるのは、自分と未来だけだからだ。』という座右の銘です。」 「ふ〜ん。偉い研究者が考える言葉だから、深い意味があるんだろうねえ。」 叶恵が関心した様子で言う。その後、今度は叶恵が植松に尋ねた。 「植松くんは、過去とか、・・もっと前の、『前世』とか信じる?」 「『前世』ですかあ・・。」 そう言って、考え込む植松の横で、修治が鼻で笑いながら答える。 「『前世』⁈ そんなもん、あるわけないだろ! 一部の人間が考え出した、ただの想像だ。もっと現実的に考えろ。」 叶恵は、恨めしいような細い目で修治を見ながら言った。 「『前世』がない、って確実に言えるの?」 メガネの奥の目を見開いて、修治が言い返す。 「確実に言えるよ! その理由はな。もしも『前世』ってものがあって、生まれ変わっているとしたら、それぞれ生命が次の生命へと、また生まれ変わっている事になる。でも、それじゃあ不自然なんだよ。昔に比べて、地球上の人口はどんどん増えてきているだろ。数と原理の辻褄が合わない。だから、生まれ変わりってものが、無いという事になるんだ。」 そう言いきった修治に、叶恵は嫌な顔をした。
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