14人が本棚に入れています
本棚に追加
そのまま言葉を失っている植松に、修治がキツく言う。
「植松。お前も研究者なんだから、しっかりしろ。『前世』とか何とか、そんな素人なオカルト的なものに左右されているようじゃ、良い研究の成果は出ないぞ。」
「は、はあ。」
植松は叱責されて、頭を掻くしかなかった。
その後、ふと時計を見て植松が言う。
「あ、もうこんな時間だ。」
夜10時20分をさしていた。
「時間なんて、気にするな。いざとなりゃ、うちに泊まればいいんだ。」
酔い口調な修治が、そんな勝手な事を植松に話す。赤みを帯びた顔になった植松は、すぐに丁重に断った。
「いえいえ。初めてお伺いして泊まるなんて。それに明日も仕事ですからね。」
そうしてタクシーを呼んで、ほんの10分後に植松はもう、そのタクシーの中だった。
店先の前まで迎えに来ているタクシーの中から、植松がお礼の挨拶をする。
「今日は突然、来たのに色々と、ありがとうございました。」
「いいのよ。また、たこ焼きでも買いに来てください。」
外まで出てきて、見送る叶恵。修治は居間で、ウトウトと眠りかけていた。
「またぜひ、たこ焼きを買いに来ます。」
植松は、再び頭を下げた後、タクシーで去っていった。
それから数日後。
下校する貴志の姿があった。校門を出て、塀沿いに一人歩いて帰る景色は、もうすっかり見慣れた通学路である。
ふと、歩き続ける貴志の後ろを、黒い高級外車が静かに近づいてきた。はじめは気のせいだと思っていたが、走り去っていかない様子に、貴志自身後を付けてくる、と感じる。
そして、貴志が歩くスピードと並走してゆっくり近寄ってきた黒いその車は、いきなり、プアッーとクラクションを鳴らしてきた。
最初のコメントを投稿しよう!