ケース3️⃣ 前世報恩

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「あの、・・・何気なく母に、父との出会いの事を尋ねたら、偶然鬼切店長の話が出てきまして・・。」 貴志は自分が言い訳でも言っているかのような気持ちになる。 「そうか。」 「いや、・・それで若い頃、県境の峠の所でレストランをやっていたんだ、って・・。」 貴志は詰まりそうな声を、頑張ってそのままの勢いに乗せて、話し続けた。 俯いている貴志は、運転しているはずの鬼切店長の視線を感じる。 「そうなのか。・・で、どう思った?」 BGMも流れていない静かな車内で、何故か貴志の鼓動が一番高鳴って聞こえる気がした。 「いやぁ・・・、どう思った、って・・いうか。」 貴志は、自分でも何をどう答えているのか分からなかった。 二人の乗った黒い高級外車は、街通りを抜けていく。 貴志は、聞いた話の内容を思い出すようにしながら話し続けた。 「えっと、・・母は、鬼切店長とお互い、想いあっていた、って・・。でもその後、鬼切店長は料理を勉強するため、東京へ行ってしまったんだと。」 鬼切店長は、黙って話を聞いていたが、一度軽く咳払いすると、話しはじめる。 「俺が、・・24歳、だったかな。叶恵さんは、21歳。お互いに料理が好きだという共通点もあり、峠のレストランで働いていた。毎日忙しかったが、あの頃が一番楽しかったのかもしれない。」 車は街を外れ、木々が立ち並ぶ山の方へと走る。 前を向いている貴志には、語りかけてくる鬼切店長の声だけが、その耳と脳を支配していった。 「貴志。お前も知っている通り、叶恵さんは、・・お前のお母さんは、人を見捨てる事が絶対に出来ない人だ。たとえ、それが犬であったとしても。その犬を自分が飼えないって分かっていても、捨てられている犬を連れ帰るような人なんだよ。」 貴志が助手席から、鬼切店長を見つめる。
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