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いざなうように佇む、山々の森に囲まれた峠へは、いくつも曲がりくねった車道が奥深くへと続いている。そこを走り続ける二人の乗った黒い車。
鬼切店長はハンドルを握り、景色のその先を見つめるようにして話していく。
「貴志。この話も、お母さんから聞いたかもしれないが。北風が吹きすさぶある日、俺はお前のお母さんを・・叶恵さんを呼びつけて、大事な話をしたんだ。」—————。
———————鬼切店長の記憶とともに、過去の場面へと甦る。
ここは、峠にあるレストラン。その外に立ち、白い息を吐きながら、自分の両手を温めている鬼切 要。24歳。
レストランを包みこんだ森の中を、冷たい風が繰り返し吹いてくる。
その時、鬼切の立っている後ろの勝手口が開き、叶恵が出てきた。
「うわっ! さぶ!」
21歳の叶恵。外に出てきた途端、その寒さに身体を縮こませ、両手で顔の半分を覆う。
叶恵は鬼切の横まで来て、両足を足踏みしながら聞いた。
「寒いよね〜。で、何? 話って?」
鬼切が叶恵の方へ向き直り、何かを差し出す。
それが何か分からず、戸惑いながら受け取る叶恵。
「何? これ。」
よく見るとチケット封筒のようで、叶恵はすぐにその中に入ってるモノを覗いて見た。
一枚のチケットのようなものが入っている。
「え? 何?」
何も言わない鬼切を前に、叶恵はそう言いながら、そのチケットらしきものを取り出し、見直した。
「航空券⁈」
あらためてよく見直しながら、これが何の意味を表しているのか疑問を抱いて、鬼切の方を見つめる。
「航空券、って。これ、何?」
鬼切は、そこでやっと口を開いた。
「いや、前に一度話した事があると思うけど。俺は、このレストランで働くだけで終わりたくないんだ。」
黙ったまま話を聞く叶恵。
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