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—————過去の回想から、現実へと戻った。
車は、峠をどれほど登って来たのか。
やがて、左へと大きくカーブしている山道を抜けると、その先の右側に高い木に囲まれた空き地が見えた。
鬼切店長は、迷わずそのスペースに車を乗り入れて停める。
この空き地スペースは、聳え立つ木々の中にあるせいか少し薄暗く感じたが、テニスコートが設置出来るぐらいの広さはあった。
車のエンジンを切った鬼切店長が、何も言わずに車から降りたので、貴志も助手席から出てみる。
薄暗いと感じたこの場所は、実際に外に出てみると、木々の間から神秘的に光の筋がいくつも差し込み、まるで空気が透き通っているかのように深い呼吸がしたくなった。
この感覚は何だろう。
そして、空き地の端には、古く朽ち果てた木材と瓦礫が積まれている。
鬼切店長は何も言わないまま一人、その瓦礫の方へと歩いていった。自動的に、貴志も鬼切店長の歩く方へと向かっていく。
貴志が、鬼切店長の側まで来た時、ポツリと話しかけられた。
「ここに、レストランがあったんだ。」
貴志は一瞬驚いたが、それは声にもならず、そして心のどこかで案の定、そう予測していた自分がいたのだ。
だが貴志には決して分かろうはずもない、あの時の出来事や心情、そして青春のひとときが、今確かにここに浮かび上がってくるのだろう。
ふと鬼切店長が、積まれた瓦礫の横に置いてある、何かを見つけて身体を屈める。
貴志は黙ってそのまま、見守っていた。
鬼切店長は両手で、端に朽ち果てていた杭の棒のような物を持ち上げる。そして意味もなく、その杭の棒らしき物の汚れを払うように、手で落とした。
いたたまれなくなり、貴志が尋ねる。
「何ですか、それ?」
鬼切店長は、先程まで朽ち果てていた杭の棒らしき物を、まるで国旗の星条旗かのように片手で立てて持ち、答えてくれた。
「ああ。コレか。さっき話してた、ポストだ。」
そう言われて貴志は、自分の目を疑い、あらためて近づいて確認する。まさか。
だが、朽ち果てていた杭の棒だった物が、鬼切店長にそう言われて見直してみると、確かにそれがポストらしき物だと判別できてきた。
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