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ポストといっても本来それほどしっかりした郵便ポストではなく、まだレストランが営業し始めた時に、手作りのインテリアとして、木工を繋ぎ合わせ飾られた物だった。
今では、土に埋め込んでいた部分は腐りかけており、郵便ポストとなる所だけが、かろうじて原形をとどめている。
見ると、そのポストを開ける小さな扉には、未だに小さな錠がかけられていた。
それを見ながら、鬼切店長が言う。
「ポストっていっても、ほとんど手紙などが入れられる事はなかったし、レストランに荷物が届いたとしても、郵便配達員は直接、店員の俺たちに手渡ししていたからなあ。本当に、飾りのポストだったんだよ。」
鬼切店長は貴志の方へ、微笑みながら話した。
そして、ポストについている錠を、鬼切店長が手で捻ると、劣化したそれは簡単に壊れて開く。
開いたポストの中を、鬼切店長が確認した。
貴志も思わず気になり、その様子を窺う。
ポストの中に手を入れ、揺さぶってみる鬼切店長。
しかし、ポストからは何も出てこなかった。
「あれから、20年ぐらい経つんだ。さすがに、何も残ってるわけないな。」
鬼切店長は、またそのポストをその場に置きながら、苦笑いして言う。
それから程なくして、二人はまた車に乗り込んだ。
鬼切店長は車を走らせ、空き地を後にする。
すぐに貴志が尋ねた。
「あのう、・・それで。さっきの話しの続きなんですが。母さんは、空港に来たんですか?」
鬼切店長は運転をしながら、一瞬寂しそうな顔を浮かべたが、貴志には笑って答える。
「フフッ。・・・いや、お前のお母さんは、叶恵さんは、約束の土曜日、空港には現れなかった。」
「やっぱり、そうですか・・。先程の話は、母さんから聞いてなかったので。初めて知りました。母さんは俺にも言ってました。人生は思ってた通りにならないものなんだと。」
貴志が落胆した様子で、話した。
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