ケース3️⃣ 前世報恩

25/71
前へ
/71ページ
次へ
ポストといっても本来それほどしっかりした郵便ポストではなく、まだレストランが営業し始めた時に、手作りのインテリアとして、木工を繋ぎ合わせ飾られた物だった。 今では、土に埋め込んでいた部分は腐りかけており、郵便ポストとなる所だけが、かろうじて原形をとどめている。 見ると、そのポストを開ける小さな扉には、未だに小さな錠がかけられていた。 それを見ながら、鬼切店長が言う。 「ポストっていっても、ほとんど手紙などが入れられる事はなかったし、レストランに荷物が届いたとしても、郵便配達員は直接、店員の俺たちに手渡ししていたからなあ。本当に、飾りのポストだったんだよ。」 鬼切店長は貴志の方へ、微笑みながら話した。 そして、ポストについている錠を、鬼切店長が手で捻ると、劣化したそれは簡単に壊れて開く。 開いたポストの中を、鬼切店長が確認した。 貴志も思わず気になり、その様子を窺う。 ポストの中に手を入れ、揺さぶってみる鬼切店長。 しかし、ポストからは何も出てこなかった。 「あれから、20年ぐらい経つんだ。さすがに、何も残ってるわけないな。」 鬼切店長は、またそのポストをその場に置きながら、苦笑いして言う。 それから程なくして、二人はまた車に乗り込んだ。 鬼切店長は車を走らせ、空き地を後にする。 すぐに貴志が尋ねた。 「あのう、・・それで。さっきの話しの続きなんですが。母さんは、空港に来たんですか?」 鬼切店長は運転をしながら、一瞬寂しそうな顔を浮かべたが、貴志には笑って答える。 「フフッ。・・・いや、お前のお母さんは、叶恵さんは、約束の土曜日、空港には現れなかった。」 「やっぱり、そうですか・・。先程の話は、母さんから聞いてなかったので。初めて知りました。母さんは俺にも言ってました。人生は思ってた通りにならないものなんだと。」 貴志が落胆した様子で、話した。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加