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スーパーの店内は、既にお客の数は少なく、それぞれの商品棚通路は、ほとんど人がいなかった。
美咲は、更に元気のない表情になり、寂しそうに尋ねてくる。
「貴志は、平気なの? あんまり、気にならないの?」
小さな声だったが、深刻な雰囲気を含んだ言葉に、貴志は手を止めて聞き返した。
「え? 平気って何が?」
立っている美咲は、隣の貴志を少し見下ろしながら話す。
「・・真理さんの事だよ。」
その名前を言われて、貴志は思わずハッとした。
美咲が話し続ける。
「黒木 真理さん。週に三回ぐらいだったけど、パートとしてアルバイトの私たちと一緒に働いた。」
貴志は、しゃがみ込んだまま、美咲の方を見上げて聞いていた。
「いつも元気があって、スーパーで働いている誰とでも気兼ねなく話しして・・・。今でも信じられないよ。真理さんが逮捕されたなんて・・。」
美咲が俯きながら話す。貴志も顔を下に向け、言葉を失った。
「・・それに、あの真理さんが、人を殺すなんて・・。信じられない・・。」
貴志はグッと唇を噛みしめ、そして呟く。
「・・・平気じゃ、ないよ。俺だって。」
美咲は、貴志の横顔を見ながら黙っている。
貴志は真正面に視線を向けて、記憶を辿るかのように話し続けた。
「今でも・・。こうしている時にも、フッと真理さんがやって来て、いつものように俺たちに話しかけてきそうな気がしているよ。」
美咲も続けて言う。
「真理さんが来なくなって、もうすぐ二週間が過ぎようとしてるのに、ね。」
貴志は、じっとしたまま黙っている。
美咲の語気が少し強くなり、尋ねてきた。
「・・あの真理さんは、・・好きな人が出来て。そう、黒木 宗一郎さんの事を好きになって、その時、結婚していた相手の女性を殺してしまった。好きな人を奪った。自分が幸せになるために・・・。」
貴志には良い言葉が思い浮かばず、ただ顔をうな垂れる。
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