ケース3️⃣ 前世報恩

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美咲が立ったまま、身体を貴志の方へ向き直り、問いかけてきた。 「ねえ。人って、そうなるのかなあ? あんな優しい人でも、好きな人のため・・幸せになるためだったら、死神にでもなってしまうのかなあ?」 貴志は美咲と目を合わせず、正面を向いたまま首を横に振る。 「・・・分からない。俺にも、分からないよ。」 美咲は立ち尽くしたまま俯き、その華奢な両方の手の平は、強く握りしめ小さく震えていた。 やがて、ポツリと口を開いたのは美咲だった。 「・・・でもね。私、思うんだ。」 貴志は変わらず正面を向いたままだったが、美咲が発するその言葉の一つ一つに、耳だけの存在になっている。 「確かに、・・・真理さんが人を殺してしまった事。その事実は変えられないし、決して許される事じゃない。恐ろしい殺人鬼の真理さんが出てきたんだと思う。」 話し続ける美咲の声は、震えているようにも聞こえたが、どこか自信と確信に満ちているようにも感じた。 「でもね。私も、貴志も、・・真理さんにはお世話になったじゃない。優しくしてもらったじゃない。いつも私たちに優しく接してくれた真理さん。それも事実よ。だから私は、真理さんには、いつか恩返しをしようと思ってるの。」 貴志は、まだ言葉に詰まっている。 「そう思わない? 人は誰かに何かしてもらったら、必ず恩返しをしないと、ね。」 それを聞いて、貴志も何度も頷いてみせた。 「俺も、そう思うよ。」 美咲の表情に笑顔が出てくる。 その時だった。二人の背後に、聞き覚えるある声が激しく唸る。 「もう〜! 二人で、こんな所でサボっていたのか!」 振り返って声の方を見ると、仁王立ちで腕組みをしている、スーパーの店員、小太り男が立っていた。 二人はまずい状況だと察知するが、時すでに遅し。小太り男の怒りと愚痴の説教を聞かされる事となる。 「正社員の俺が、一生懸命働いている時に、アルバイトの君たちは、こんな所でサボって! もしや仕事中に、LINE交換なんかしていたんじゃないだろうな!」 「いや、そんな、サボってなんかいません。」 貴志がすぐに弁解した。 「あ、じゃあ私、残りの仕事あるから。」 と、美咲は言い残して、そそくさと立ち去っていく。 貴志は、また商品棚への整理をし始める。 「本当に〜! ちょっと目を離したら、コレだからな!」 小太り男は舌打ちすると、この場を離れて行った。
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