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その日の夜。
時計は、21時05分。
もうとっくに閉店している、『タコ焼きハウス・エリーゼ』。
そこへ、
「ただいま〜。」
と聞き慣れた声がしたかと思うと、居間のドアが開き、貴志が帰ってきた。
「お帰り〜。」
いつものように、台所から出てきて貴志を迎える叶恵。
貴志は疲れ切った様子で、そのまま居間へと寝転がった。
「今日も、お疲れだね。先に風呂に入るかい? 夕食は、サンマの蒲焼だよ。」
そう投げかけて、叶恵はまた台所へと戻っていく。
貴志は、大の字に寝そべり目を閉じたまま返答した。
「ああ。先に飯、済ませようかな。」
「じゃあ、すぐ出来るから待ってな。」
台所から、叶恵が了解する。
やがて、その台所からは、サンマが焼ける音と匂い、煙が立ち込めてきた。
その時、また居間のドアが開く。入ってきたのは、貴志の父・秋原 修治だった。
「ただいま。」
抑揚のない声で、ぽそりと呟く。
痩せ型でスラリと背が高く、青白い顔に無精髭。かけた眼鏡からは、大きなギョロリとした眼が覗いている。
修治はすぐに、鼻をヒクヒクさせた後、ためいきを吐いた。
「ああ〜。今日は、サンマかあ。」
その声を聞いて、台所から顔を出す叶恵。
「何だい。久しぶりに帰ってきたかと思ったら、サンマの文句かい?」
するとその時、修治の後に続いて居間から姿を現した男の姿があった。
「おい、遠慮しないで、さっと上がって来いよ。」
修治が、オドオドと戸惑っているその男を居間へと促す。
上がってきた男は、小柄で修治と同じような痩せ型の体型をしていて、色白の面長な顔。太い黒縁の眼鏡をかけ、白いバケットハットを被っていた。
「何だい? お客さんかい?」
気がついた叶恵が、いつものように勢いよく言うと、男は益々萎縮した様子だった。
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