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「今日は、同じ研究所で働いている植松くんを連れてきたんだ。あ、植松くん。気にせず座りなさい。」
修治は居間に座った後、男を紹介しながら、男にも声をかける。
そう言われて男は、慌てて被っていたバケットハットを脱ぎ挨拶した。
「あの、植松 正文と言います。こんな遅くに来て、すいません。」
「俺が、家に来いって連れて来たんだから、良いんだよ。」
修治が植松をなだめている間に、叶恵は仕方ない、といった顔をして、すぐに台所へと消える。
貴志は、ちゃぶ台の前に座ったまま、この状況の成り行きを見守っていた。
ちゃぶ台の前に、正座をして座る植松。
叶恵が台所の方から、今出来たばかりのサンマの蒲焼と白飯を運んできて、貴志の前のちゃぶ台に置いた。
そして、叶恵が修治に問いかける。
「久しぶりに帰ってきて、しかもお客さんを連れてきても、気の利いたおもてなしが出来ないじゃない。」
「いいんだよ。気の利いた事しなくても。とりあえず、ビールだけ出してやってくれ。」
修治は、調子良さそうに叶恵に返した。
そのやり取りを見ていた植松が、居所悪そうに叶恵に訴える。
「あの・・、本当にすいません。すぐに帰りますから。」
叶恵は苛立ちを隠しながら、対応に困った様子で、再び台所へと戻った。
正座のまま辺りをキョロキョロと見ている植松の肩をバシッと叩く修治。
「だから、気にするなって。研究というのは細かいモノを見ているが、細かい考え方をしていては大きな発見や成果は得られないぞ!」
「は、はい。」
その言葉と勢いに押され、とりあえず植松は返事した。
貴志はその間にも、目の前に置かれたサンマの蒲焼と白飯を口の中へ放り込んでいく。
夕食をする貴志を見て、植松が修治に尋ねた。
「あ、息子さんですか。」
聞かれた修治は、貴志を見ながら答える。
「そうだ。俺の息子の貴志だ。だが俺に似てなくて、出来が悪いぞ。」
そんな父・修治の、嫌味な紹介を無視して、貴志は植松にコクリと頭を下げた。
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