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車は家路に向かいながら、話しを続ける植松。
「洋子さんの、・・・母さんの幸せって、どこにあるんですか。僕は、母さんに恩があるのに、それを返せず・・。母さんも報われない人生を歩んでいる。・・・・こんな事って・・・。」
その張り裂けるような植松の気持ちを感じながら、叶恵が口を開いた。
「そんな児童がこうしている間にも、全国にはたくさんいるんだよ。あの施設長の船家さんが言っていた通りだよ。私たちには、それをまず理解していって、そんな不幸な子を一人でも無くしていく事をやっていくしかないんだよ。」
そうして少しの間、沈黙が続く。
やがて植松が、何かを思いついたように話しはじめた。
「僕、・・決めました。母さんへの恩返しです。まだ、遅くない。恩返しは出来る。」
「え? どうするつもりですか?」
貴志が、尋ねる。
自信を持った様子で、植松が答えた。
「僕、あの子。蓮くんを引き取ります。」
「え⁈ 引き取る? どういう事?」
驚愕の声で、叶恵が聞く。
あくまでも冷静に、植松が言った。
「そういう事です。僕は、蓮くんの里親になります。」
「え〜! 里親って。そんな簡単に言ってるけど。里親って、アレでしょ?」
戸惑いながら、叶恵が話しかける。
「そうです。里親です。通常では、身寄りのない児童を引き取るには、二つの方法があります。一つは里親になる事。もう一つは養子縁組になる事。この二つの違いは、養子縁組の場合、法律・戸籍上の親子になる事です。これは駅に捨てられていたという事情もありますし、手続きなどもまた別にありますから、いずれこの形を取ろうと考えています。だから今はまず、里親になろうと思います。」
「って言っても、植松くんはまだ26歳だし。独身だし。そんな簡単には・・。」
心配そうに、叶恵が尋ねた。
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