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ひと月も経つと、此花は十分独り立ちできるほどに成長した。元々営業職の経験があることが強みとなったのだ。
この会社でのルールもあるが、竜聖はあまりそれに囚われる必要はないと思い、此花のやり方を尊重した。すると、竜聖にとっても学ぶことが多く、自分の営業の参考にもなった。
こうして互いのやり方をミックスしていった結果、大口の契約も取れて万々歳、此花は竜聖の手を離れることになった。ひと月でこの成果は驚異的だ。
「これからはライバルかぁ。俺も気合を入れないと!」
「僕なんてまだまだですよ」
飲みの砕けた席でも此花は敬語を崩さない。一線引かれているようで寂しいが、それが此花という人間だ。
一カ月の間、誰よりも側にいてその人柄に触れてきた。此花は、清廉潔白という言葉を地で行く人物だと思う。今後は互いに切磋琢磨していく存在だ。うかうかしていられない。
「年齢は一個下だけど、会社では先輩、あっさりとは抜かせませんよ」
「さすが負けず嫌いですね」
花が咲くように微笑む此花に、竜聖の目が釘付けになる。
見惚れてしまったのがバレないように、竜聖はゴホンと咳払いをし、ビールの注がれたグラスを一気に傾ける。此花はそんな竜聖を笑みを浮かべたまま、じっと見つめていた。
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