空知らぬ雨

3/7

99人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「此花さん、顔色が悪いですよ」  竜聖から独り立ちした此花は、営業として新規の契約も取ってくるなど、順調に仕事をこなしていた。  だが、ここ数日様子がおかしい。顔色が芳しくなく、時折フラフラしている。 「すみません、きっと寝不足のせいですね。気を付けます」  そう言って笑うが、これ以上中には踏み込ませないといった意思が感じられ、竜聖は唇を噛みしめる。  何か困っているのではないか。トラブルに巻き込まれているのではないか。  竜聖は此花に関わりたくてしょうがないのに、此花の方はそれを拒絶する。自分はそれほど此花に信用されていないのかと凹むが、そんな弱気な心を払拭するように勢いよく頭を振った。  此花は何でも一人で対処しようとする。そう、彼が卒業したあの日だって──。  竜聖は人知れず拳を握りしめ、決意する。  こうなったら、無理やりにでも関わってやる!  そうと決めたらすぐさま行動開始だ。竜聖は逐一此花のスケジュールを確認し、可能な限り此花の行動を見張ることにした。 「まるでストーカーだな」  数メートル先には此花の後ろ姿がある。取引先との打ち合わせを終え、此花は会社に向かっていた。  此花が訪問していた取引先は、竜聖から引き継いだ会社だ。会社の雰囲気や担当者の人柄もわかっている。のんびりした社風で、担当者も気のいいオヤジといった人物だ。だからここと問題があるとは思えない。そう思って竜聖が油断していると、不意に目の前にいたはずの此花の姿が消えていた。 「嘘だろ、どこ行った!?」  ほんのちょっと目を離した隙にいなくなった。竜聖がつけていることに気付いたのだろうか。いや、気付いたからといって逃げる必要などない。  竜聖は自分の迂闊さに舌打ちし、あちこち駆け回りながら此花を探す。 「……いっ!」  ともすれば見逃してしまいそうなほどの小さな声を拾い、竜聖はそちらに視線を向ける。そこは細い路地になっていた。 「まさか……」  竜聖は迷わずその路地に飛び込んだ。聞き違えることはない。さっき耳に入ってきた声は、間違いなく此花のものだ。 「此花さんっ!」  陽の当たらない狭い路地には二人の男がいた。大柄で鋭い目つきをした男が竜聖を一瞥する。彼は細身の男を抱え、建物の壁に押し付けていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加