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知らなかった。全く知らない感覚だった。それは完全に新しいものではなくて、ある意味ずっとわたしの身近にあったもので、それなのに私にはわからなかったもので、私には……私には、人の死を悼むということがなんなのか、ちっともわかっていなかった。
死んだのは別段、今まで好きだった人でもなければ、友人でも親戚でも全くなくて、単に時々顔を合わせることがあった程度の、かつての親友の今の親友の女性だった。彼女はすごく朗らかで、どこか楽しい人だった。そんな楽しそうな彼女のことを私は今まで何とも思っていなかったのが嘘みたいに、あははと笑う笑い方も、びっくりした時の目が開く表情も、ドヤ顔で面白がって相手を揶揄う姿も、やさしい声も憶えている。うまい言い方はわからないけれど、ただ、そう、私の友達じゃないのに、私の友達みたく距離が近いように感じられる人だった。
こうやって人の死を悼んだのも、きっと私は、親友の死を悼む彼女につられただけなんだと思う。彼女が泣いて目を腫らしてガラガラの声で笑おうとするのが痛ましくて、親友だったと言うのが悲しくて、私は、私はとしゃくり上げるのに私も胸がツンと痛むような気さえしてしまう。何なのだろう、これが人が死ぬことなのだろうか。これが人間の死であったのか。これが、彼女にとっての人間の死か。
いいや、これ以上自分のことばかりを優先させるまい。私はもっと、たくさん考えるべきことがある。まずは彼女の心に寄り添って、彼女と一緒に悲しみたい。
秋雨はぴちゃぴちゃと歩道に落ちる。人間の儚さに、単純さに、彼女の心の美しさに、また死者の魂が安らかにあるよう、私は今、たしかに生きている。
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