6. エゴ

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「Koi、」  百瀬の指が、またカクテルグラスを遊び出す。 「こんなことを言うのはあれなんだけどさ、鹿谷くんは、東京で花田先生を探すのを諦めちゃったわけだよね。だったら、花田先生じゃなきゃだめだってことにはならないんじゃないの?」 「だとしてもだよ」  レンはそう言いながら、百瀬が手の中で遊んでいたカクテルグラスを奪い取った。 「俺はさ、仮に花田が空汰を連れて行ったとしても、俺と空汰の縁は切れないと思ってたんだよ。いつでも空汰には会えるし、いつだって奪えると思ってた。タイミングさえ伺えばいいって、そう思ってた。だけど、空汰は東京に行って、俺との繋がりを一切絶っちまった」  奪い取ったグラスを目線より高く持ち上げて、照明に照らす。きらきらと、青く、美しく、中の液体が揺らめく。その透き通った青は、いつかに見たどこまでも広い青空を思わせる。 「その時点で、俺じゃだめだってことは確定してる。花田でもだめだったんだとしたら、また、空汰を幸せにできる奴が現れるのを待つしかないのかもな」  そして、レンはカクテルを飲み干した。 「とりあえず今の俺にできることは、花田が空汰を助けられると信じて、ふたりを会わせてやることだけだ」  レンは空のカクテルグラスを手に立ち上がる。 「まずは、空汰を探さないとな」  そんなレンを、百瀬は眉を寄せて見上げる。 「待って。その花田先生の居場所だって、わからないんでしょ。どうするっていうのさ」 「知ってるよ」 「……ええ?」  レンは百瀬を見下ろす。百瀬は驚愕の表情でレンを見上げてくる。レンは思わず目をそらした。 「知ってるんだよ。もうずっと前から、俺は花田の居場所を知ってる。花田が東京へ帰るとき連絡先を聞いて、それから俺は定期的にあいつと連絡を取ってる」 「嘘でしょ。最初からってことじゃない」  少しだけ非難めいた声音で、百瀬が言った。レンは、なにも言い返せない。  花田に空汰を東京に連れて行かないのかと迫ったあの日、花田から、レンに連絡先を渡してきたのだ。なにかあれば連絡してくればいい、と。だからレンは連絡をとった。花田がいなくなってからすぐのことだ。花田には「早すぎる」と笑われたが、このいかにも軽薄そうな男がいつ連絡先を変えてしまうかなどわからない。早いに越したことはないと思ったのだ。空汰は花田の連絡先を知らないことを知っていた上で、レンは花田に連絡をとった。 (どうしてものときに頼れればいいと思ってた) 「そのこと、鹿谷くんは……?」  百瀬が静かに問う。レンは百瀬と目を合わせることなく笑って言い捨てた。 「言えるわけないだろ」
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