7. 嘘

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 そしてたどり着くと、いつかのように、そこに見慣れた背中を見つけた。その背中は、かつて見たときほど小さくはない。 「空汰」  レンが呼びかければ、空汰は驚いたように少し肩を震わせると、ゆっくりと振り向いた。そしてレンの姿をみとめると、目を丸くしたあと、どこか泣きそうに、そして困ったように、笑った。 「レン……」  レンは黙って空汰の隣に並ぶ。 「……いつも、レンの方から来てくれる。東京にだって、来てくれた。ごめん」  でもありがとう、とそう言う空汰に、レンは眉を寄せて俯く。 「……そんなにいい奴じゃねえよ」  かろうじて、それだけ言う。そんなレンの返答に、空汰は小さく笑った。 「レンはいい奴だよ。俺なんかより、よっぽど」 「そんなわけねえだろ」  すぐさまレンが否定すれば、「そんなことあるよ」と空汰は首を横に振る。 「黙っていなくなった俺を、二度も探しに来てくれた。見捨てないでいてくれた」  見捨てるだなんて、とレンは思う。できたなら、どんなによかっただろう。どんなに、自分の心は軽くなるだろう。けれど、絶対にそんなことはできないのだ。 「ねえ、レン」  空汰は微笑みを顔に残したまま、囁くような小さな声で言う。 「レン、俺の話、聞いてくれる?」  レンは、無言のままそれに頷いた。空汰はそれを見守ると、すっと、今度はどこまでも広がる青い空を見上げる。 「俺はさ、先生を探すために東京に行ったでしょ。レンはそれに反対した。東京に行くことにじゃなくて、先生を探すってことに」  空汰はひとつ、息を零す。なにかを耐えるような息遣いだった。 「こうなることが、わかってたんでしょ」 「違う」  レンは、そんな空汰の言葉にかぶせるように首を振る。空汰は少し驚いたようにレンを見る。その視線を感じて、レンも、空汰の顔をまっすぐに見る。 「空汰、それは違う」  そしてもう一度、それを否定した。  空汰が東京へ行くことには、レンも賛成だった。この村から出て行く判断を空汰自身でしたのであれば、それはいいことだと思ったのだ。それに、てっきり花田が空汰を連れて行くと思っていたからでもある。反対したのは、また空汰が東京でひとりになってしまうと思ったからだ。 (じゃあ、俺がついていけばいい。そうも思った。だけど、)  だけど、空汰は花田を探すのだと言う。花田を探す空汰にとって、空汰を想っている自分の存在が近くにいるのは、邪魔になってしまうのではないだろうか。そう思ったのだ。 「俺が反対したのは、」  レンは応えかけて、口を噤む。 (だけど本当は、) (俺が反対した本当の理由は、空汰が花田を追いかけるのが嫌だったからだ) (否定して、反対して、そしたらもうここには存在しない花田のことなんて諦めて、すっかり忘れて、そしてまた、俺が空汰の隣に立てる日が来ると思ったからだ)  空汰はレンの言葉を待ち、じっと見つめてくる。レンはどうにもいたたまれなくなって、目を伏せる。 (そんなこと、)  小さく、唇を噛む。 (そんなこと、言えない)  レンには、自分の思いを空汰に打ち明けることなど、できなかった。 (今更空汰に好きだと訴えたところで、)  はっと、短い息がレンの口から漏れ出す。目頭が熱くなる。  好きだと伝えることが空汰を困らせるだけだということは、痛いほどによくわかっていた。 (俺は、空汰に幸せになってほしいだけだ)  幸せに、なって欲しい。  苦しい思いはして欲しくない。 (それが俺のエゴだとしても、俺は、そのためなら、) (そのためなら、俺は俺の気持ちを殺すし、嘘だってつく) (嘘を、つける)
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