7. 嘘

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「俺が反対したのはさ、」  レンは改めて空汰を見る。空汰はどこか不安そうな顔をしてレンの言葉を待っていた。そんな空汰の表情に、レンは思わず笑ってしまう。笑いながら、レンは応えた。 「まあ、半分は空汰の思ってたとおりかも。見つけられるわけないだろって思ってた。東京にはうじゃうじゃ人がいることも知ってたし、その中からひとりの人間を探すのがどんなに大変なことかも、想像するだけで反吐が出たから」  レンは、そっと、空汰の頭に触れる。丸い頭とさらさらの黒髪は、昔と変わらない。少しだけ、手が震えた。 「でも俺が反対したのは、見つけられないだろうから、じゃない。その先だ。見つけられなかったときの空汰が心配だった。東京は人がうじゃうじゃいる。だけど、空汰が東京で友だちを見つけられるかも、俺は心配だったんだよ。花田が見つかんなかったとき、おまえを慰めてくれる優しい友だちはいるのかなあ、ってな」  レンが笑えば、されるがままに頭を撫でられ続けている空汰はどこか呆けた顔をしてレンの顔を見返してくる。 「おまえ、落ち込みすぎるから」  レンは、頭を撫でていた手を空汰の頬へと滑らせる。 (今だけは)  レンは胸の内で呟く。  いつかの日にも、同じことを心の中で呟いた。その日のことを、レンは今でも鮮明に覚えている。あのときは、「今だけは、空汰を手放す」、「そしていつか取り戻す」という意味の言葉だった。  だけど、今は違う。 (本当に、今だけ)  もう、未来はない。あの日に「いつか」と願った未来は、もう来ない。  じわり、と視界が歪んだ。もう、表情を繕えそうになかった。レンの目から、涙が溢れ落ちる。霞んだ視界の向こうで、空汰の表情が驚愕に染まっていくのがわかった。  驚く空汰と、そんな空汰の前でぼろぼろと涙を流している自分がどうにも滑稽に思えて、レンは泣きながらも笑ってしまう。そして、触れていた空汰の頬をつねった。いつかのような柔らかさはない。もう、子どもではないから。 「おまえ、すぐ、笑わなくなる、じゃん」  涙混じりの、息の続かない情けない声でレンは言った。 「あの日、俺は、言ったはずだ」  もう片方の手も、空汰の頬に添える。そして両の手で空汰の頬をつねり上げ、無理やりにその口角を持ち上げる。 「おまえは、笑ってろって」 「レン……」  されるがままになりながら、けれど、空汰はレンのその手に自分の手を添える。 「レン、」  優しく呼びかけられ、レンはゆるゆると、空汰の頬から手を離す。ふたりは両の手を取り合いながら向き合う形になる。 「レン、ありがとう」  空汰の目にもじわりと涙が滲んでいるのがわかった。涙に潤んだ瞳が、きらきらと輝いている。それがあまりにも綺麗で、レンの目からはまた新たな涙が溢れ出した。  そんなレンを見てか、空汰は笑った。偽りもなにもない、無邪気で純粋で、慈愛のこもった、あまりにも眩い笑顔だった。 「レンがいてくれて、本当によかった」
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