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ふわり、とベッドに体が沈む。シーツが乾いた音を立てる。覆いかぶさった水落を見上げようとすると、水落のその向こうで煌々と光を灯す照明が眩しくて、空汰は目を細めた。水落はそんな空汰を笑い、ぐいと空汰に乗り上げるようにして、空汰の頭の上にあるベッドボードに手を伸ばす。空汰の視界を水落のバスローブが覆い、少し息苦しくなる。息を詰めていると、ふっと眩しかった光が消え、ベッドサイドのライトが柔らかなオレンジを灯すのみになる。それを確かめてから、水落は空汰の上から起き上がり、今度は腰を跨ぐように馬乗りになる。
「これで眩しくない?」
水落にそう言われ、空汰はおずおずと頷いた。オレンジ色に照らされた水落は、そっと空汰の額に張りついた前髪を撫でる。その手は空汰の頬を撫で、首筋を這い、バスローブに包まれた肩へと降りる。平たい胸を手のひらで包むように撫で下ろすと、その手は脇へ滑り落ち、空汰の細い腰をなぞって水落の元へと帰っていく。それから、その手が空汰の下腹へ乗り、ゆるりと撫でる。
ぞわり、とうなじの毛が逆立った。「はっ」と短く息を吐き出すことで、空汰は身を引きそうになるのを耐える。
「怖い?」
下腹を撫でるのを止めずに、水落は空汰の顔の横にもう一方の肘を着くと、耳に顔を寄せてきてそう囁く。耳に当たる息がこそばゆくて、空汰はぎゅっときつく目を閉じる。そして、ゆるゆると首を横に振る。
と、その頭の動きを拒むように、水落の薄い唇が、ふいに空汰の耳朶を食んだ。ぞくり、と腰の奥から震えが走る。
「あ、」
思わず掠れた声が漏れ、空汰の体は強張る。そんな空汰を水落は吐息で笑う。そしてそのまま、水落は無常にも、耳に舌を這わせた。空汰の口から零れる息は、震えた。
必死で腰が震えそうになるのを耐える空汰を水落は目を細めて見やると、今度は、下腹に這わせていた手を、そっと、太ももへと滑らせる。いつのまにやらバスローブははだけてしまっていて、水落のかさついた肌をそこに直に感じ、空汰はまた声を漏らす。舐めるように、水落の手は空汰の太ももを撫でる。
「ねえ、」
と、水落が耳元で言う。空汰は薄く目を開く。見えるのは、水落のうなじだけだ。
「好きな人の名前、呼んでいいよ」
言われ、空汰ははっとして目を見開く。水落の手が止まる。空汰の乱れつつあった息遣いだけはまだ止まらなくて、静かな空間に、空汰の吐息だけがやけに響く。外では大雨が降っているはずなのに、その気配はまったく感じない。ときたま遠くで鳴る雷の音だけが、唯一外の様子を教えてくれる。
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