空と花、嘘と恋

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 するり、と衣擦れの音が響いて、水落が体を起こした。空汰の腰に跨り、いつの間にやら空汰の額にうっすらと浮かんでいた汗をそっと拭う。空汰はそっと目を閉じる。  ――チチチ、というライターの音。  ――ふわりとくゆる、タバコの煙。  空汰の額から、水落の手が離れていく。空汰はひとつ深呼吸をすると、閉じていた目を開いた。そして、その目でまっすぐに、水落を見据える。自分を抱こうとする男を、見据える。  すると、水落はへにゃりと見たことのない笑い方をした。 「君は、」  そしてなにかを言いかけ、また口を閉ざす。困ったような、照れたような、そんな笑みだった。目尻を下げ、口の端が上がろうか下がろうか迷うように、変な力が入っているのがわかる。 「……俺は、」  やがて、水落はまた口を開く。 「俺は、君のこと、好きだよ」  水落は、囁くようにそう言う。その目はまっすぐに空汰を見ている。その瞳には優しさと悲しさが宿っている。その瞳を見て、無意識に強張っていた空汰の体から、ふいに、力が抜ける。 (この人も、)  そんなことを、思う。水落の左の薬指に嵌った銀色の指輪が、オレンジ色の光を受けてきらきらと光っている。  空汰は口を開く。 「うそつき」  口から出た声は、ひどく掠れていた。けれど、そんな声でも水落にはきちんと届いたらしい。水落は小さく「ふふ」と笑った。そして、空汰の頭の横に手をつく。 「お互い様」  水落が囁く。 「本当に」  空汰も笑ってそう返す。  なんだか無性におかしくなって、空汰は水落の背中に手を回す。はだけたバスローブから垣間見える肌が近くなり、その少しだけ汗ばんだ肌からは、ほのかに香水が香ってきた。その香りに、胸の奥がざわざわと揺らぐ。  青い空になびく、金色の髪。  空汰は水落を見上げる。水落も空汰を見る。そして、笑う。 「あ、」  声が出る。止まっていた水落の手が、動き出す。  目を閉じる。  頭がくらくらする。自分が遠のいていくのがわかる。怖くなる。  かさついた唇が空汰の首筋を撫ぜた。途端に、どろりと、空汰の脳みそは溶ける。なにも考えることが、できなくなる。 「……好き」  口から、言葉が溢れ出た。  ――レン……  ずっと認めてこなかったその感情に、名がついた。  ――レン、 (こんな俺を知ったら、レンはどんな顔をする?)  そんなことを思う自分に、空汰は吐息混じりのため息を零す。 (これで、おしまい)  涙が溢れる。頬を伝った涙に、そっと舌が這わされた。足を撫でていた水落の手が、するすると、かろうじて引っかかるようにまとわりついていたバスローブを掻き分けながら、登ってくる。  ――ばいばい、レン  声にならない声で、囁いた。
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