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「……会いてぇな……」
待ち遠しい気持ちが膨らんで、時間が経つのが長い。意識するまでは、時間が経つのなんて、あっという間だったのに。
『モイン♪』
ふざけたような、間の抜けたような着信音が鳴る。慌てて上体を起こして握りしめたスマホの画面をタップすると、月冴からのメッセージだった。
「今、家の前にいるよ」──そう書かれている。
「──ッ……!」
勢いよく立ち上がり上着も持たずに自室を飛び出す。離れからなら母屋に回るより庭におりて裏木戸から外に出た方が早い。
渡り廊下に備えてある外履き用のサンダルを引っ掛けて庭を横切り裏木戸の鍵を開けると少し低くなっている戸口を潜った。
しっかりと閉ざされた門の前に人影が見える。ほど近くにある電柱に取り付けられた街路灯が、ぼんやりとその人影を照らして──金糸雀色の髪がキラキラと輝いた。
「……月冴」
「あ、尚斗。……って、どっから出てきたの?」
呼びかけに気づき、言うないなや「頭に葉っぱついてる」──色褪せた一枚の葉を俺の前髪から外した月冴がふんわりと微笑んだ。
「ごめんねーすっかり遅くなっちゃって。ボール磨きとユニフォームの片付けに手間取った挙げ句に体育館の清掃も時間かかっちゃってこんな時間に……」
「ふっ……く、っあはははははは!」
いや参ったと言わんばかりの表情──緩やかに下った眉尻。
予想に反しないリアクションを得られたことになんとも可笑しさがこみ上げて、堪らず噴き出してしまった。
「えっ!? えぇ~……!? そんな笑うとこ!? 俺そんなおかしいこと言ったかな?」
「い、いやっ……言ってない。言って、ないんだけど……ククッ」
普段からリアクションはおろか笑うことも少ない俺が笑っている。それも、声を上げて腹を抱えて。傍から見れば異様な光景だろう。
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