「プレイボール!」

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「プレイボール!」

 午前7時過ぎ、ネクタイを締めアパートを出た。早朝はさすがに少し肌寒い季節になってきたな、ぼちぼちコートをクリーニングに出しておいた方が良さそうだ。 アパートから駅まで歩いて10分弱、電車で乗り換えなし25分、駅から会社まで歩いて5分。通勤に関しては可もなく不可もなく、むしろ恵まれている方とさえ思っている。年間休日は120日以上。けっして多くはないがボーナスも毎年支給される。残業を強制される雰囲気もない。今日の早朝出社だって自主的なものだ。金曜の職場の夕方の雰囲気は、みんなで少し残業してみんなで飲みに行く、というものだ。しかし、今日はさっさと帰って寝なければ。明日は早朝から草野球の試合が控えているのだから。  数年来の取引先のお客さんに誘われてチームに入ったのが4ヶ月ほど前、チーム内でのミニゲームは毎回やっているが、明日は俺にとって初めての他のチームとの試合、打ちまくって活躍する絶好のチャンスだ。毎日仕事から帰ってきてからのランニングも欠かさず行った、酒を飲む日もかなり少なくなった。それくらい楽しみにしてきたんだ、だから今日は何があっても残業はできない、そのための早朝出社なのだ。  駅までもう少しというところの信号待ちの間、鞄を地面に置いて素振りをしてみる。周りに人も少ないので、恥ずかしさも無い。こんな早朝にいる人なんて、犬の散歩のおじいちゃんが一人、俺と同じようなサラリーマンが一人、、おや、信号の反対側に野球帽で野球バッグを持った少年がいるじゃないか。朝練か、あの制服は俺のアパートの近くにある高校だ。そういえば、野球部が今年は甲子園圏内なんだとかローカルニュースで見たことあったっけ。  むむ、なんと彼もピッチングの動作をし始めたじゃないか。キミはピッチャーなのかい?ならちょうどいいや、キミのピッチングに合わせて素振りさせてもらうよ。  
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