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「……やっぱり変だよ」
重なり合う手は、どちらも同様に小さく、華奢に見える。
どんなに工夫しても可憐さを表現しきれない男の手が、今はそこにはない。
「よかったですね。本物になれて」
本物というのが何を指しているのかは理解できた。
今の自分は身長も体つきも、可愛らしい女性にしか見えない。
それが願望の結果ということなら、無視のできないズレがある。
「違うよ、俺は……」
これは自分の願望などではない。そう伝えようとした時、彼女の手の温もりがふっと消え、恵輔は広い草原に一人きりになっていた。動物たちの姿も見えない。
音が止んだ世界――
『――ケイスケ』
男の低い声だけが響く。
『どうした、もういいのか』
不満げに問いかけてくる声。
『その身体はお前のものだ。いつもの半端なものではないぞ』
半端とはなんだと、恵輔は顔をしかめた。
「……なんでこんな夢見てるんだろ」
『夢ではない。望めばいつでも、ここに来られる』
この有り様が現実だと言うのだろうか。それとも幻覚を見ているとでも言いたいのか。
男の声はなんだか気味が悪い。恵輔には怖い夢を望む趣味は無かった。
「あの子と踊るのはちょっと面白かったな。不思議な恰好してたけど、あれ俺の趣味ってことはないよね……まぁ夢なんて、大抵は意味不明なものか」
『また連れてきてやろう』
おかしな誘いを断る前に視界がぼやけ、奇妙な夢の終わりを告げた。
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