《第1章 フィクションの欲望》 第1話 いざなう

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「……やっぱり変だよ」  重なり合う手は、どちらも同様に小さく、華奢に見える。  どんなに工夫しても可憐さを表現しきれない男の手が、今はそこにはない。 「よかったですね。本物になれて」  本物というのが何を指しているのかは理解できた。  今の自分は身長も体つきも、可愛らしい女性にしか見えない。  それが願望の結果ということなら、無視のできないズレがある。 「違うよ、俺は……」  これは自分の願望などではない。そう伝えようとした時、彼女の手の温もりがふっと消え、恵輔は広い草原に一人きりになっていた。動物たちの姿も見えない。  音が止んだ世界―― 『――ケイスケ』  男の低い声だけが響く。 『どうした、もういいのか』  不満げに問いかけてくる声。 『その身体はお前のものだ。いつもの半端なものではないぞ』  半端とはなんだと、恵輔は顔をしかめた。 「……なんでこんな夢見てるんだろ」 『夢ではない。望めばいつでも、ここに来られる』  この有り様が現実だと言うのだろうか。それとも幻覚を見ているとでも言いたいのか。  男の声はなんだか気味が悪い。恵輔には怖い夢を望む趣味は無かった。 「あの子と踊るのはちょっと面白かったな。不思議な恰好してたけど、あれ俺の趣味ってことはないよね……まぁ夢なんて、大抵は意味不明なものか」 『また連れてきてやろう』  おかしな誘いを断る前に視界がぼやけ、奇妙な夢の終わりを告げた。
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