第2話 間抜け面に寝ぐせを添えて

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 そろそろ気象庁が梅雨入り発表をする時期だろうかと、人によっては少し憂鬱な気分で天気予報をチェックする、そんな六月の上旬。  今朝のニュース番組では、清潔感のある身なりをしたお姉さんが、夜は天気が崩れそうだと言っていた。  まだ昼下がりの空は、雨模様どころか青一色に見える。 (こんな晴れた空、しばらく見られないのかもな)  強い日差しのおかげで、天井までガラス張りの食堂内は照明いらずだ。  窓の外に、テラス席で空き時間を過ごす生徒の姿は少ない。  緑が映える初夏の快晴も、汗ばむ陽気と感じてしまえば不快なものだ。  例に漏れず、恵輔は空調のきいた屋内席でランチ兼デザートタイムを過ごしていた。  窓際の席を陣取り、混み合う学食内の喧騒から気を逸らそうと、緑化意識の高そうな大学の敷地内を眺めている。少し暑いのは覚悟の上だ。 「相変わらず、魂抜けてるキャンパスライフだね」  カタンと、テーブルにトレーが置かれた音で、自分が話しかけられているのだと気づいた。  前を見ると、ふいに現れたショートヘアの女性が、勝手に腰を下ろし寛ぎはじめていた。  チョコレートパフェを食べている恵輔の鼻に、サバ定食の香ばしい匂いが容赦なく届く。 「……有は相変わらず、はつらつとしてるね」  数少ない友人の一人である遠藤有(えんどうゆう)は、二人掛けテーブルの片側が空いているのを、これ幸いと相席したのだろう。恵輔が空き時間を大抵一人で過ごしていることを知っているからこその行動なのだろうが……。  彼女の、強引というか雑な性格には、この二ヶ月程で慣れてしまった。 「恵輔も、もっと彩り豊かにさぁ。バイト辞めて暇なんだし、週末は女の子とデートでもしたら?」 「そんな相手いないし、今日金曜だよ、急すぎ……ていうか勝手に暇人にしないでよ」  ほぼ食べ終えているパフェの底のほうでドロドロに溶けているアイスを意味も無く混ぜながら、恵輔は興味のない提案に後ろ向きな返事をした。  友達が少なくてもプライベートは充実している。そのために、やたらとシフトを増やされるバイトを先日辞めたのだ。 「予想通りの反応だけど、無駄を承知で一応渡しておくよ」  そう言って財布から取り出した二枚の紙を、パフェの傍らに差し出した。  愛らしいイルカのイラストが描かれている。  今週末で期限切れになる、水族館のチケットだ。
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