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男の黒い髪に向かって、すがるように手を伸ばす。
頭を掴み、ベッドに押し付けた。
男の顔を押し潰すように……。上から、押し付けた。
どうして……。どうして、こんなに……。
盛り上がった腕の筋肉が、筋状の黒い影を作る。
こいつの……。こいつの、せいだ……。全部、こいつのせいだ……。
強く握った拳は、男の髪を鷲掴みにした。男の皮膚が、必死に抵抗しているのが指に伝わる。
全部……、全部、こいつのせいだ。
すぐ目のまえにある、表情が見えないただ黒いだけの後頭部。苛立ちが、暴発しそうだった。
わずかに残った理性が、必死に抑えようとしている苛立ちは、ぐらぐらと左右に大きく揺れ動く。
肩を上下させ、深く大きく呼吸する。
それはもう、精神を鎮めるための深呼吸なんかではなく、臨戦態勢の獣の、荒い息遣いでしかなかった。
もう……、限界だった。
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