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ダウンを脱ぎ捨て、手首にぶら下げたビニール袋を床に置いた。
「なぁ、お前、いま彼氏居んの?」
腕を交差させ、ニットの裾を掴みながら風呂場へ向かう。
「とっとと風呂入れよ……」
苛立ちを含んだ小さな声が、背中にぶつけられた。
洗面台には、歯ブラシが一本だけ立っていた。そこから、親しい人間が頻繁に出入りしているようすは、感じられなかった。
俺は、「あー……」と、一人納得した。
洗面所から顔だけを覗かせ「要るもんは準備してきたからさ、それ、使ってよ」にこりと笑う。
身一つで来たところで、ヤれねぇだろうことは、想定内。セックスすんのに必要なもん、一式、揃えてきた。
「あっ。んじゃ、好きなヤツは?」
思い出したように聞いた。
「余計なこと言ってねぇで、とっとと入れよ」
「へいへい」
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