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見た記憶はあるが、おそらく今まで一度も使ったことのない黒い箸を使って、麺を口へ運ぶ。
つるつると、掴みにくい。
「どお? うまい?」
オレの顔を覗き込む。
「たぶん」
食べることに、興味がない。
でも、きっと、たぶん。
うまいんだと思う。
「そっか」
男は嬉しそうに言った。
そのあとも、掴みにくい麺と格闘しながら、何度か口へ運んだ。
「野菜も食えよ。どうせろくなもん食ってないんだろ」
いろんな緑色が入った小皿を、オレのほうへ寄せた。
緑色を一枚、箸で挟み、口へ運んだ。
オレンジ色の透き通った液体――男がコンソメスープと言っていた――も飲んでみる。
普段コーヒーしか摂取していないオレの腹は、すぐに限界に達した。
「腹いっぱい」
箸を持つ手を止めた。
「ちょっと休憩してろ。デザートあるからな」
男は立ち上がると、「あー、ケツいってー」独り言を言いながらキッチンへ向かった。
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