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4.午前三時。
「まだ居たのかよ」
寝室を出ると、男がリビングの壁にもたれかかって座っていた。
時間は午前三時を過ぎていた。
男の前を通り過ぎ、ベランダへ向かう。
「寒くないの?」
煙草を吸うオレの背中に向かって、男が言った。
「寒い」
「ちゃんと上着、着てこないと」
肩に何かが掛けられる。ふわりと軽く、暖かいもの。
視界の端に、男の手と、男のダウンジャケットが映った。
「彼シャツみたいで萌えるな」
その浮ついた声から、男はたぶん、オレのうしろでニヤついている。
「は? お前バカなの」
冷えきったオレの声が、男には聞こえていないんだろうか。
男は当然のように、オレの腹に腕を回し、うしろから体を密着させた。
「あったかい?」
男が嬉しそうに聞いた。
溜め息混じりの息を吐き出す。
真っ直ぐ前に伸びていった白い煙は、一瞬だけ、浮き上がるような動きを見せると、すぐに黒い空へと消えていった。
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