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男の腕に力が入り、体を引き寄せられたように感じた。
気のせいかとも思った。
でも、密着していた男の体と体温を、より強く背中に感じた。
「何、見てんの?」
男が聞いた。
オレの目の前には、ただ黒いだけの空が広がっていた。
「なんも」
「そっ、か……」
肩に、こつんと何かがぶつかる。
同時に、視界の端に男の銀色の髪が見えた。
「ねぇ……俺と、付き合ってよ……」
うしろから聞こえた、低く暗い、男の声。
「あぁ」
無意識にこぼれた。
オレの頭はたぶん、少しも働いていない。
ただ、喉から声が、こぼれただけ。
男の言葉に、意味なんてない。
オレの答えに、意味なんてない。
ただ、こぼれただけ。
意味なんて、何もない。
二本目の煙草を咥え、ライターで火を点けた。
オイルの匂いが、ふわりと風に流されていった。
男の腕に力が入り、体を強く引き寄せられた。
痛みを感じる、一歩、手前。
温度を上げた体温だけでなく、男の鼓動までもが、背中に伝わってくるようだった。
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