4.午前三時。

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 肩の上で、男が小さく笑ったような気がした。 「ねぇ……、キスしていい?」  男がくだらないことを聞いた。 「今まで許可なんて取ったことねぇだろ」  次の言葉を(ふさ)ぐように、煙草を口に咥えた。    オレは、動揺しているんだろうか?     煙草を持つ手が、わずかに震えているのが目に入り、咄嗟(とっさ)に腕に力を入れ、それを否定した。  バカな男の、バカな言葉。  そんなものに、動揺しているのか?     意識して、煙草を深く吸い込んだ。  くだらない疑念なんか、煙と一緒に飲み込んでしまおう、と。 「まぁ、そうなんだけどさ……。もし可能なら、お前からしてほしいなー、って」  男の声は、いつもの明るい声と、低く暗い声が混じったような、複雑な色をしていた。  肺いっぱいに溜め込んだ煙を、大きく吐き出すと、オレは男の腕の中で、体を反転させた。
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