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「熱いから気をつけろよ」
目の前に、マグカップが差し出された。
コーヒーの匂いがする、透き通った湯気が、ゆらゆらと立ち昇っていく。
両手で包み込むようにして、受け取った。
冷えた手にじんわりと熱が伝わり、血液が動き出していくのが分かった。
「なぁ、ここにソファ置こうよ。二人で座れるやつ」
男がきらきらの声で言う。
「いらない」
「ケツいてーだろ?」
「いらない」
「んじゃ、ラグ敷こうよ。ふかふかのやつ」
「いらない」
「二人でイチャイチャごろごろできるし」
きらきらが増した男の声が、オレの耳を通り抜けていった。
マグカップを傾け、コーヒーを体の中に流し込む。
「んじゃ、せめて、クッション買おー? ケツ痛い」
男はオレに腕を擦り付けるようにして、横にぴたりとくっつきしゃがみこんだ。
あぁ……。
分かった。
男の声は、赤色だ……。
赤やオレンジや黄色みたいな色じゃなくて、赤だ。
こいつの舌と同じ、赤色だ……。
だから、オレには強過ぎて、眩しんだ……。
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