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「あっ……」
無意識に喉から漏れ出したような、半分掠れた音。
すぐ横で、聞こえた。
男の手がすっと伸び、シャツの襟を引っ張った。
男の顔が、おもむろに近付く。
熱い息が首に掛かり、男の舌が……這う。
瞬間、ちりちりと熱い痛みが走り、反射的に男を肘で押し返した。
「やめろよ」
傷を隠すように、襟の上から手で覆った。
「痛い?」
「は? 痛いに決まってんだろ」
「ごめん。こんなんなってるとは思わなかった」
男は透視でもできるんだろうか。
首にある嚙み傷に、真っ直ぐ視線を向けている。
オレの手で隠され、見えるはずもない嚙み傷に、視線をずっと向けていた。
その熱を含んだ視線に、傷だけでなく、手の甲までじりじりと焼けていくようだった。
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