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森の中を歩いていると、木々の間から生温く湿り気のある怪しい風が吹いてきて私たちの頬を掠めた。
暗く長い道程は想像していた以上に不気味で、私にとっては過酷なものだった。
「ポワールさーん!」
「大丈夫かー⁉︎」
「……」
娘の名前はポワールっていうらしい。梨の花言葉は"癒し"……"癒し手"としては何だか複雑な気持ちだ。
しばらく探し回っているけど見つかる気配なんて全然ない。もう魔族に食べられちゃったんじゃないの?
「あれ?この場所さっきも通ったような……」
私は気付いてしまった。
「マリー、それは本当か?」
「ええ、さっきその辺の木にナイフで十字の斬り傷をつけておいたの。その木がこれよ」
「……まさか、僕たちこの森で遭難してしまったのか?」
そうだ。迷子のお嬢様を探すつもりが、自分たちが迷子になってしまったのだ。何て間抜けな……こんなことなら依頼なんて受けなければよかったんだ。
「いや待て!俺たちには導きの方位磁針があるはずだろ?」
「それならさっきから使ってるよ」
「何だって?見せてみろ」
タカオの手から方位磁針を取り上げるユウガオ。大きな手の上で、針は様々な方角へと目まぐるしく向きを変えている。
「嘘だろ⁉︎霊峰アルギュロスに行くまでの前座くらいにしか思ってなかったこの森で、まさか遭難しちまうなんてよ…」
タカオもユウガオも落胆した様子で、手荷物の中に入っている食糧と水の残量を確認し始めた。
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