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まだ生気の感じられる怪物の躯に、錫杖を掲げて癒しの力をシャワーのように浴びせると、切断された肉体が繋がり再生し始める。
「おい、マリー!正気か?」
「せっかく倒したのに……」
「煩いっ!このまま森から出られなかったら意味ないじゃんか」
癒しの力は、人間だけでなく動植物や魔族にだって通用する。
流石に死者を復活させることはできないけれど、僅かでも息が残っていればこの通り完璧に再生させられる。
言わば"生くべき者に生を与うる能力"というわけだ。
「ぐおおおっ!」
元通りの肉体を取り戻したトロールは、早速私を食べようと手を伸ばしてくる。
命の恩人に対して無礼極まりないヤツだ。
「おっと、まだ斬られたりねぇようだな」
怪物が私を掴む寸前で、ユウガオの剣が手首から先を切り落とした。
「ぎゃあああっ」
葡萄酒のような濃い赤紫色の血を流し、苦しむトロール。
「さて、森の出口を知ってるなら道案内してもらおうかしら…」
「待って!その前に、僕たちの目的はポワールを探すことだったはずだ。まずは彼女の行方を尋ねてみよう」
確かに、無事に森を脱出できたとしても、"救う"と豪語してきたお嬢様のことを見つけられなかったとなれば勇者として顔が立たない。
「おいデカブツ!俺たちは人探しをしてるんだが……この子と歳は同じくらいだけど、お淑やかな如何にもお嬢様然とした女の子だ。見覚えはないか?」
私を比較対象にするのはやめて欲しいところだけど、知能の低そうな怪物にわかりやすく伝えるためなら仕方ないと我慢した。
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