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ポワールの導きで麓の森をあっさりと通過した私たちは、白銀の霊峰・アルギュロス山道の入り口に差し掛かっていた。
「昨日のトロールも俺たちに恐れをなしてか姿を現さなかったし、体力をほぼ消耗していない万全の状態で山に登れそうだぜ」
「この先は私も未踏の地……皆様の足手纏いにならないよう全力でついて行きますわ」
「伝承によると山頂には"神の書"と呼ばれる神聖な書物が奉られた祠があるらしいけど、それを狙う魔族によって占拠されているとも聞く……心して先へ行こう!」
「みんなの命は私が保障するわ!こんな山、とっとと越えて魔王を倒しにいきましょう」
最初の一歩はタカオが踏み出し、その後ろにユウガオが続いて歩き始める。
「ポワール、何してるの?早く行きなさいよ」
「え?」
彼女はなぜか私が先に行くのを待っている。
「え?じゃないわよ!あなたが後ろから襲われても大丈夫なように私が最後尾を歩いてあげるって言ってんの」
「マリー、気を悪くしないで聞いてね?癒し手のあなたが守られる位置に居た方がいいと思うの。腕っ節も私のほうがまだ強そうだし…」
私は何も言い返せなかった。
癒しの能力は一流でも、剣術や武術の類は一切使えない。
手に持っているこの錫杖だって、能力を増幅させるためのものであって、武器ではない。こいつで殴打したとしても、私の腕力では大した威力にならない。
そうだ。今、この4人の中で最も弱くて守られる立場ーー"足手纏い"なのは私なんだ。
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