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「皆さん、旅の道中ではこんな風にお食事をされているのですね」
「ああ、その通りだよ。大自然の中でする食事はとても美味い。いつ敵が襲ってくるかわからないというスリルも相まって、より一層今噛み締めている食べ物の味を大切に感じたいと思えるんだ」
「す、すごい美学をお持ちなのですね」
「こうやって円形に向かい合って座るのも、どの方向から敵が襲ってきても気付けるようにするためだ」
「皆さん、危険を伴う旅の中で、食事のような一つ一つの場面を過ごすのにも色々な工夫をされているのですね!」
「……」
ポワールが仲間に入ってからの食事と休息は、緊張感に欠けているというか、これから魔王を倒しに行くとは思えないくらいに和やかな空気に包まれていた。
果たしてこんなのでいいのだろうか?
その時、1匹の蝶が私たちの頭上に現れてキラキラとした鱗粉を散らしながら飛び回った。
「さっきと違う種類の蝶!……ユウガオさん、蝶で合ってますよね?」
「ああ、こいつは蝶で間違いねぇ」
「この"戦禍の蝶"が現れたということは……」
タカオたちの言う"戦禍の蝶"って何だ?
どうやら不吉な存在らしく、仲間たちの団欒の場は一瞬にして緊迫した空気につつまれた。
「こいつが現れた時は、決まって直後に戦いへと巻き込まれるんだ」
「戦を運ぶ死神なのか、危機を知らせる女神なのかはわからないけど……」
「警戒するに越したことはないっていうわけね」
周囲を警戒する私たち。崖の上、坂の下……どの方向を見ても、敵の姿は小さくすら見えてこない。
「っ⁉︎」
その時、私たちの立っている足元の土がボコボコと盛り上がり始めた。
出てきたのは……"手"だ!
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