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「ここは私の出番のようね」
タカオのすぐ後ろを走りながら、私は錫杖を振り上げて癒しの力を放出した。
「サンキュー、元気が湧いて来たぜ」
「マリー、助かるよ」
私にかかれば、怪我の治癒だけでなく疲労の回復だってお手のものだ。
「既に死んでいる敵を殺すことなんて不可能……ここで足を止めて相手しててもキリがない。この状況を打破するには彼らに命を吹き込み動かしている術者を倒すしかない!」
タカオは屍人を操る悪の根源が山頂にいると踏んで、戦闘を身に降りかかる火の粉を払う程度にとどめながらもひたすら先へと進んだ。
視界に広がる景色は次第に白く、冷たく変化していき、頂上に近づいてきていることがわかった。
「きゃっ」
山の八合目辺りを通過した頃、突然ポワールが何かに驚いたような声を発した。
何事かと思って振り返ると、地面から出てきた手首が彼女の足首を掴んでいた。
「ポワール!今すぐにその手を斬ってやるからじっとしてろよ」
「大丈夫、自分の身は自分で守れますわ」
ポワールは掴まれた状態の右足を勢いよく蹴り上げ、土に埋まっていた屍人の身体を遠くの地表へと吹っ飛ばした。
「うっ」
再び走り出そうとするものの、先程まで掴まれていた足首が痛んで動けないポワール。
山頂付近の屍人たちは元が凍死体だからか非常に体温が低いらしく、触れられていた箇所が凍傷になっていた。
「任せなさい。この程度の傷なら一瞬で治るわ」
錫杖を軽く翳して念を送ると、忽ち彼女の焼けたような皮膚は元通りに戻った。
「ありがとうございます!」
「私は癒し手として当然のことをしたまでよ」
それにしても、防寒用の毛皮のスカートまで着用しておきながら足首が素肌だったとは……
「すみません、有事の際に少しでも身軽に体術を駆使できるようにと思って……」
私の視線から言いたい事を感じ取ったように弁明するポワール。
「マリー!後ろっ」
すると突然、タカオが私に向かって叫んだ。
「ひっ」
振り向かなくても、冷たい吐息のようなものが首筋に吹きかけられるのがわかる。
いつの間にか、屍人が後ろに立っていたのだ。
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