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だが……。
どんなシステムにもバグはつきもの、思わぬ弊害で崩壊の危機にあった。
母親から「成績がアップするまで、へんてこなアルバイトも、カラオケもオール禁止!」と、宣言されたのだ。
おとなしく景子は部活と学業に専念する毎日を送るしかない。
これには防衛庁は頭を抱えた。
今のところ日本で発見された超能力者は景子だけだ。
彼女がいなければ、自衛隊が新たに作成した特殊テロのガードシステムなど絵に描いた餅。すべての怪事件の解決は景子がいなければどうにもならない。
だから、恵介に和室へ呼び出されて、「頼む、また国家的な危機なんだ!」と、頭を下げられても、「だってさぁ~、また赤点を取ったら、空手部も退部させられるかもしれないんだよ、お父さんは娘の学校生活をグチャグチャにしたいわけ?」
と、景子はバイトを渋るようになっている。
恵介の立場は微妙だった。
そう言われたら、言葉を濁さざるおえない。自衛官としての立場と、父親としての立場の板挟みで苦悩する毎日だ。
「うっぐ! し、しかし、国があっての教育じゃないか、もし、大きな事件があって戒厳令でも出されてみろ、またコロナ騒ぎのように家に閉じこもる生活だ。それでもいいのか!」
「それはやだ~」
「だから、だからだよ! 自衛隊のトップが牢獄に幽閉された頓田の申し出に興味を示したのも無理ないだろう! 景子! 頼む! 協力してくれ! バイト料ははずむ!」
「げっ! 頓田! 冗談じゃないよ、あんな気持ち悪いおっさん!」
恵介の口から、あの忌まわしきマッドサイエンティスト、頓(とん)田(だ)勇造(ゆうぞう)の名前が出たのにはわけがある。
防衛省では景子のスペアを得るべく、密かに交渉していたのだ。
頓田から、「超能力の数が少ないなら、増やせばいいだろう?」と、持ち掛けられ、自衛隊のトップは揺れに揺れた。
頓田は薬学のエキスパートで、偶然ながら自分の身体を自由に変形させるという超能力を発現させる薬品を開発したことでも知られていた。
その彼が《増やせる》と、いう。
たった一人の超能力者でも、世界の名だたるテロリストたちを赤子の手をひねるように潰してきたのだ。
もし、超能力者部隊が編成できれば、自衛隊は限りなく無敵に近づく。 「ど、どうやって?」と、面会に来ていた防衛庁の高級官僚が飛びついたのも無理はなかった。
この話を聞いて、景子は眉間にしわを寄せた。
「結局は騙された大人の尻拭いじゃんか、もう、お金では動かないからね、おかあさんに叱られるのヤだもん」
「おかあさんには、お父さんから上手く言っとく」
「うっそだね~、お父さん、すぐ逃げるじゃん」
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