protection wall と計画

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 *  さらに景子は苦々しい顔になった。  「で、口車に乗ったわけね」  恵介は面目なさそうに肩を落とした。  「そのあと功を焦った防衛大臣が交渉して、頓田の条件を丸呑みして薬品を開発してもらった」  「効いたの?」  「ああ、被験者の自衛隊員が、十メートル離れた場所から、一リットルの水筒を動かせるようになった」  「なーんだ、たいしたことじゃないじゃん」  「いやいや、一リットルの水筒だぞ、重さにすれば一キロだ。それだけの力があればひとの首を絞めることだってできるじゃないか」  それを聞いて、景子の目が大きく開いた。そこまで考えていなかったのだ。  「げげっ!」  「しかもゴンタロウは相手が人間だと戦えない。パワードスーツモードで武装しても、十メートル先から攻撃されたらひとたまりもない」  「でも、頓田は飲んでないんでしょ、それなら安心じゃん」  「そうなんだが、問題なのは被験者になった井坂(いさか)一等陸士だ。テツマジンを飲んだ途端、穏やかだった性格が変わり、子供を憎むようになったんだ」  「それじゃ頓田と同じじゃないの」  恵介は大きくうなずいた。  「井坂は頓田と同じ性格になってしまったんだ」  「うーん、あれ、それじゃ、超能力者って頓田なのかしら? 変だな、ゴンタロウと捕らえたときはそんな力を出さなかったし、脱獄だって簡単なはずだわ」  「いや、頓田にはそんな力はない。どうやら五年前に病気で死んだ奴の奥さんに力があったらしい」  「へえ?」  「問題なのは頓田にとって井坂は味方になったことだ」  「そりゃ、三時間だけ頓田と同じ性格になったんだからね」  「井坂はテツマジンを他の十人の隊員にくばったようなんだ」  「え! で、でも、十メートル以上、離れたら超能力は無効でしょ、ライフル使えば収拾可能でしょうよ」  「いや、いや、念力を使う超能力者がいきなり十人だぞ。せめて井坂ひとりのときに時間を戻してほしい」  「わたしが巻き戻せるのは二十四時間だけだよ」  「昨日のわたしに井坂の計画を伝えてくれればいいんだ」  「じゃあ、井坂さんという人が薬をばらまいた正確な時間はいつかわかってるの?」  「おおよそ、昼の休憩時間だ」    *  時間は巻き戻ったものの、テツマジンをばらまくのを事前に阻止された井坂は孤軍奮闘した。  不思議だった。どうして秘密の計画が二見三佐にバレたのかわからない。  頓田から密かに託されたテツマジンの瓶は、いつのまにか彼のロッカーから奪われていた。  残りはポケットに取っていた二十粒だけだ。  逮捕される寸前、彼は隠していた力を発動した。  射程距離は十メートルなのは変わらないが、念力の影響を受ける対象はひとりではなく、その場にいた複数の自衛官が被害を受けた。  自衛隊の横須賀基地は大混乱だ。  まず基地の電源を破壊し、コンピュータや監視カメラを破壊した。  犠牲者もうなぎのぼりで、命を奪われることはなかったものの、邪魔な隊員たちは両手の人差し指と親指を折られて銃を持てないようにされた。  そろそろ薬の効力が切れる三時間を過ぎる。  井坂はポケットに入れたテツマジンを齧りながら勝ち誇った。  「このテの薬がほしい暴力団なら、いくらでもいる。地下に潜り込んでばらまいてやるぞ! わーははははは!」  薬がある限り、井坂は《頓田》でいられた。  記憶までも同一なので、設備と材料さえ調達すればテツマジンを製造することは可能なのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加