しのぶれど

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「最近どうしたの」  家に帰ると、ソファに座っていた母に声をかけられた。 「どうしたのって、別に何も無いけど」 「じゃあどうして帰ってくるのが最近遅くなったのよ」 「それは……」  困った。  まさか正直に言う訳にはいかない。  だからといって上手い言い訳が思いつかなかった。 (あなたはどうして乗らなかったの)    頭の中に昨日の泉水の姿が映し出された。  その瞬間、僕の顔が紅潮していき、母は笑みを浮かべた。 「もしかして好きな子でもできた? その子と一緒にいるから帰るのが遅くなったとか」  言われた瞬間、僕の口元が緩んだ。  見事に言い当てられて笑うしか無くなった。 「ただ図書館にいるだけだよ」  それでも正直に言うのは恥ずかしかったので、咄嗟に思いついた言い訳を言い放った。  母は、 「ふーん」 と言い、それ以上何も言わなかったが、もう気づいているのだろう。  そもそも僕は漫画しか読まないのだから。 ──夕食後、母から渡された本をベッドに寝転がりながら読んでいると、弟が漫画を借りに部屋にやってきた。  適当に何冊か手に取り、ドアへ向かって行ったが、突如立ちどまり、振り返った。 「兄ちゃん、彼女でもできた?」  ページをめくる手が止まった。  本を横に置き、起き上がった。  僕の目は今までにないくらいに大きく開いていた。 「急に何言ってるんだよ」 「いや、なんか、お母さんが」  すぐに大きく開いた目を細めた。  まさか雅人に言ったのか。  母への怒りを覚えながら弟を見ていると、弟は続けて言った。 「帰ってきてから、兄ちゃん見てニヤニヤしてたから」  あ、なるほど。僕の弟は素晴らしい洞察力を持っていたようだ。 「なあ雅人、お前は僕に彼女なんて出来ると思うか」 「そう言われると……」  弟は言葉を詰まらせた。  兄のことをよく分かっている優秀な弟だ。  良い事なのか悪いことなのか、分からないが、弟は冷静に考えて僕に彼女などいるはずが無いと判断したはずだ。  
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