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「じゃあ片想いか」
また僕は固まった。
これで今日2度目だ。固まるしかなかった。
顔が熱くなるのがわかる。
恥ずかしくてすぐに顔を伏せた。
「いるわけ……ないだろ」
ギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「ふーん」
そう言い弟は部屋を出た。
顔は見ていなかったが、恐らくにやけていただろう。
しばらく枕に顔を埋めながら悶えていた。
母さんが、母さんが悪い。母さんが突然聞いてくるから……。
そんなことを考えていると、父や祖母にも同じように見られているんじゃないかと思い、さらに顔が熱くなった。
風呂に入るため、着替えを持ちながら階段を駆け下りた。
風呂に入る前にリビングに向かい、食器を洗っている母の前に立った。
「どうしたの」
一言だけ告げて立ち去ろう。そう決めていた。
「恋すちょう わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思いそめしか」
「え? なに?」
戸惑う母を無視し、風呂場に向かった。
我ながら感心した。
湯船に浸かりながらそう思った。
自分の言葉で伝えるのが恥ずかしいなら、人の言葉を借りればいい。
普通、そのほうが恥ずかしいかもしれないが、泉水なら意味を理解してくれる。
そうだ……こうすれば思いを伝えられる。別に振られたっていい。ただ伝えられれば。
そうなると大切なのは歌選びだが、まさに今の兼人にピッタリの歌が頭に浮かんだ。
「よしやるぞ」
決心し、僕は勢いよく立ち上がった。
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