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翌日、僕の胸は朝から高鳴っていた。放課後、あの場所で泉水に想いを伝える時を待ちわびびながら。
放課後、昨日と同じように駅に向かい、ベンチの左端に腰掛けた。少しして、泉水が隣に座り、いつも通り本を開いた。
電車が駅に着き、兼人と泉水以外の人は皆電車に乗りこんだ。
今だ。
一瞬、とある戦国武将の言葉が頭に浮かんだ。
僕は泉水に話しかけるタイミングを伺った。
なんて声をかけようか。
不意に泉水の持っている本のタイトルが目に入った。前と同じく、百人一首の本を読んでいた。
よし……。
僕は唾を飲み込み、体を泉水の方へ向けた。
僕に気がついたのか、泉水も僕に顔を向けた。
「百人一首、好きなんですか」
そう聞くと泉水は顔を下に向け答えた。
「まあ、好きなのかしら……」
泉水は小さな声でそう呟いた。
「実は僕も好きで、同じように好きな人がいたら嬉しいなぁって」
嘘をついた。
本当は別に好きになった訳では無い。
「そうなの。例えばどんな歌が好きなの」
「そうですね……」
顔を落として考えた。
覚えている百人一首を頭に並べると、すぐに良いと思った歌が浮かんできた。
「忘れじの 行く末までは 難ければ
今日を限りの 命ともがな……ですね。そう言えばこの歌の作者……」
そこまで言うと泉水は笑みを漏らした。
「ふふふ……そうね。私もその歌好きなの」
やった。
僕は心の中で舞い上がった。
心に残っていた歌がまさか泉水も好きな歌だったとは、思いも寄らなかった。
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