駅に来るまで

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 さらに10分ほどすると、車内アナウンスが聞こえ、電車は停車した。  僕は電車から降り、家に向かって歩き出した。いつもより1時間ほど遅れて歩く道は、いつもより少しだけ暗く、物悲しさを感じさせた。  10分ほど歩くと家に着いた。  僕の家は田舎だからと別に大きくもない父の実家の普通の一軒家だ。  両親はお互い教師をしており、父の父、つまり僕の祖父も教師だった。祖父は5年前に脳溢血で亡くなった。70歳だった。 そうして今は両親と祖母、そして中学一年の弟と5人で暮らしていた。 「ただいま」  そう言い、玄関のドアを開けると、いつも学校から帰ってきた時に見る靴の数より、ひとつ多かった。  弟は部活をしているので、いつも僕が家に着くとあるのは祖母の靴だけであった。 「おかえりなさい」  居間の方から甲高い声が聞こえた。紛れもない母、君江(きみえ)の声であった。  廊下を渡り、居間に入ると、キッチンに立つ母の姿と、ソファーに座ってテレビを見る祖母、貴子(たかこ)の姿があった。 「今日はちょっと帰るの遅かったんじゃないの。何かあったの」  普段、母は僕の帰る時間を正確には把握していないのだが、少なくとも、5時前には家に帰っていることは分かっていた。 「別に、1本乗遅れたから待ってただけ」 「ふぅん、何かしてたの」 「先生に頼み事されただけ」  僕がそう答えると母は納得し炊飯器のスイッチを押した。  僕は2階の自室へ行き制服を脱いだ。  頭の中は少女のことでいっぱいだった。  駅のホームのベンチに座り、ただ一点に本を見つめる少女の姿が頭から離れなかった。  ベットで寝転がって天井を見つめていると玄関のドアが開いた音がした。 「ただいま」  声変わりしたばかりの太い声が聞こえた。弟の雅人(まさと)が部活を終え帰ってきたようだ。  部屋の時計に目をやると時間は6時を過ぎていた。  さらに少しして、玄関のドアが開いた。  父、武彦(たけひこ)が帰ってきたのだろう。そろそろ夕食の時間だと思い、ベットから腰を上げ、階段をかけおり、居間へ向かった。  居間に行くと母が夕飯のおかずと食器を並べていた。今日は生姜焼きのようだ。 「ほら、あんたも手伝って」  母にそう言われ、テーブルに食器を並べた。 「いただきます」  5人揃い、皆で食べ始めた。 「そろそろ大会だろ。調子はどうだ」 「良い調子だよ。もしかしたら優勝できるかもね」 「雅人は凄いねぇ」  弟は父と祖母から部活の様子を聞かれている。弟は、人数が少ないとはいえ、1年生ながら野球部のレギュラーだ。  弟は僕と違い、運動神経が良く、友達も多い、そして何より明るい性格で皆から好かれていた。    
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