駅に来るまで

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 そんな生活を1ヶ月ほど続けて、10月に入ったある日、僕は久しぶりに今までの時間に駅に着いた。  駅は同じ高校の生徒達でにぎわっていた。  僕は誰も座っていないベンチの左端に、左肘をついて腰掛けた。  すると真ん中を空け、右端にいつもの少女が座った。少女はカバンから本を取りだし、ページを開いた。  今日の本にはカバーがつけられていなかった。  僕の目に一瞬、本のタイトルの一部が映った。  『百人一首』  そう書かれていたのが見えた。  面白いのかな。百人一首なんて珍しい。  そんなことを考えながら僕の心臓は今まで感じたことの無いくらい、激しく、熱く動いていていた。  学校のマラソン大会で走っている最中にも感じたことの無い、激しく、熱いものを感じた。  今までで1番近くに少女がいる、その事実が僕の気持ちを昂らせた。  時間が過ぎていき、電車が駅のホームへ入ってきた。  まだ帰りたくない、そんな気持ちが僕の中に溢れていた。  駅にいた人達が電車に乗り込んでいくのを見ながら、僕は動かなかった。  いや、動けなかった。  少女がまだいるのか確かめるために振り向いた。  振り向くと少女もこちらに顔を向けていた。  僕と少女は目が合った。 「あ……」  思わず僕の口から声が漏れた。  僕は咄嗟に視線を下に向け、彼女から目を逸らした。  今まで横顔しか見た記憶がなかったが、やはりとても綺麗な顔をしており、その瞳に吸い込まれそうな感覚になった。  もう一度少女を見てみると、何故か少女は僕から目を離そうとしなかった。  僕達は電車が走り去るまで見つめあっていた。  目をパチクリさせながら、なにか話しかけてみたいと勇気を振り絞り、僕は顔を上げ言葉を発した。 「乗らなくてよかったのですか」  勇気を出して発した第一声に僕はガッカリした。 もっとそれらしいことが言えないのかと、自分の顔が熱くなっていくのを感じた。 「いいの、まだ帰りたくないから」  自問自答していると少女の透き通るような綺麗な声が聞こえた。  初めて耳にした少女の声に感激した。  ようやく声が聞けた、なんて綺麗な声なんだろう。そんなことを考えていると少女は兼人から目を離し、いつも通り本に目を向けた。 僕はその時、焦りを感じた。 このままでは自分達の間柄は進展することなく終わってしまう。 せめて名前くらい聞いておきたい。  
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